"形見を捨てた嫁の代償" 第5話
といた。
だが、には何も入っていない。
正式な遺言は別の所に保管してあり、その内容もまだ確定していなかった。
本来なら事が終わり、妻へをわせたで、私から拓哉に説する予定だった。
ところが、エプロンの件が起きた。
私は台所で皿を洗いながら、封筒のをいしていた。
このまま見せずに片づけようか。
そうった。
今の雰囲気で財産の話などしたくなかった。
拓哉たちが帰ったでしまえばいい。
しかし器を片づけ終えるに、彩がちがった。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな」
拓哉も計を見た。
私は台所からてきた。
「せっかくだから、帰るに母さんへをわせていってくれ」
拓哉は頷いた。
「もちろん」
3は仏へ移した。
拓哉が最初に座り、線をあげた。
向も父親の真似をしてさなをわせる。
「おばあちゃん、またね」
その声に胸が詰まった。
最に彩が仏壇のへ座った。
私はしれた所から見ていた。
彩は度をわせた。
ほんの数秒だった。
そしてちがろうとした、その線が仏壇の横で止まった。
封筒だった。
彩の目が、その文字を追った。
「拓哉の族へ」
「マンション2棟」
「預3000万円」
「遺言」
そこまで読んだ瞬、彩の表がらかに変わった。
私は黙って見ていた。
さっきまで退屈そうだった目に、急にいが宿った。
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「お義父さん」
声の調子まで変わった。
「ん?」
私はらないふりをした。
彩は封筒を指差した。
「これ……」
「ああ、それか」
「遺言なんですか?」
拓哉も振り返った。
「父さん、遺言なんて作ってるの?」
「まあ、もだからな」
私はそれ以説しなかった。
すると彩は急に玄関の方へ歩き始めた。
何をするのかとった。
次の瞬、彼女はゴミ袋へを伸ばした。
彩はゴミ袋のを探り、妻の柄のエプロンを取りした。
先ほどまで「見ているだけで気が滅入る」と言っていたものだった。
「お義父さん!」
るい声で私を呼ぶ。
私は返事をせず、その様子を見ていた。
彩はエプロンについたさなごみをで払い、丁寧に広げた。
「さっきのエプロン、ちゃんと取りしておきましたから」
私は何も言わなかった。
「やっぱり捨てるなんて良くないですよね」
さっきとはまるで別だった。
「本当に素敵な形見ですよね。こういうものって、おじゃ買えないですもんね」
私は彩の顔を見た。
笑っている。
その笑顔が、なぜか先ほどより恐ろしく見えた。
「そうか」
私がく返すと、彩はさらに続けた。
「向にもちゃんと受け継がせたいです。おばあちゃんが40も使ってたんですよね? すごく素敵じゃないですか」
「さっきは古いものだと言っていたが」
私が言うと、彩は瞬だけ言葉に詰まった。
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それでもすぐ笑顔を作った。
「いや、あれは……ちょっと言い方が悪かっただけです」
「らないから物をもらうなとも言ってたな」
「それも、般な話ですよ」
「私は向にとってらないなのか」
「そんなじゃないですって」
彩の声がわずかにずった。
拓哉はを抱えるように額へを当てていた。
おそらく息子にも、妻の態度が変わった理由は分かっていたのだろう。
向だけが、何が起きているのか理解できず、私たちの顔を順番に見ていた。
彩はエプロンを胸元へ抱えた。
「私、事にしますから」
「彩さんが?」
「はい。もちろんです」
「嫌じゃないのか。お母さんの匂いがして気持ち悪いんじゃなかったのか」
今度こそ、彩の笑顔が固まった。
事ではない。
私ももう、無理に穏やかな空気を守る必はないとっていた。
「くなったの古いものは気が滅入るとも言っていたな」
「お義父さん、そんなに言葉尻を――」
「言葉尻じゃない」
私は声を荒らげなかった。
鳴れば、彩は自分が被害者だと言いすかもしれない。
だから静かに話した。
「妻が40使った形見を、私の目のでゴミ袋に入れた。向に私をらないだと言った。それを、私は忘れられんよ」
彩は黙った。
私は仏壇の横へ歩いた。
そこに置いてあった封筒をに取る。
彩の線が封筒についてきた。
それだけで分だった。
私は封をけ、を見せた。
空だった。
「お義父さん?」
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