"形見を捨てた嫁の代償" 第9話
「父さん」
「どうした」
しばらく沈黙した、息子は言った。
「このは本当に悪かった」
「もう謝っただろ」
「いや、ちゃんと話したかった」
私は黙って聞いた。
拓哉は、帰宅してから彩とかなり話をしたらしい。
詳細までは言わなかった。
私も聞かなかった。
夫婦には夫婦の問題がある。
ただ拓哉は、1つだけはっきり言った。
「母さんの形見を馬鹿にするのは、もうやめてくれって言った」
私は目を閉じた。
「そうか」
「俺も今まで黙りすぎた」
その声には悔が混じっていた。
「彩が嫌悪くなるのが面倒で、何でもわせてた。でも向が見てるで、あれは駄目だった」
「分かったならいい」
私はそれだけ答えた。
息子を責め続けるつもりはなかった。
は違える。
切なのは、そのどうするかだ。
「父さん」
「何だ」
「遺産のことだけど」
私はし構えた。
しかし拓哉が続けた言葉は、予と違った。
「俺のことは気にしなくていいから」
「……」
「向に残したいなら、そうしてくれ。父さんが好きに決めればいい」
私はすぐには答えなかった。
「お、本当にそれでいいのか」
「うん」
拓哉はし笑ったようだった。
「母さんだったら、分そう言うとう」
その言葉を聞いた、胸のの何かがしほどけた。
「そうかもしれんな」
「それと、今度また向を連れてくよ」
「彩さんは?」
「それは……まだ分からない」
私は無理に聞かなかった。
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「向が来たいなら、いつでも来い」
話を切った、私は仏壇のへ座った。
妻の写真を見る。
「おの息子、しは分かったみたいだぞ」
線を1本てた。
い煙がゆっくりへ昇っていく。
その横に、柄のエプロンを置いた。
いつか向がになる。
その頃、私はまだきているだろうか。
分からない。
もしきていれば、私のから渡したい。
「これは、おばあちゃんが40使っていたものだ」
そう説したい。
もしその、向が「いらない」と言ったとしても責めるつもりはない。
切なのは、になるかどうかではない。
古いかしいかでもない。
誰かがその物を切にしたをったで、自分で決めることだ。
そして本物の遺言についても、しずつ理をめている。
妻と2で残した財産を、何のために使うのか。
誰の未来へ託すのか。
急いで決める必はない。
ただ1つ、回忌のよりとはらかに違うことがある。
私はもう、「息子だから」という理由だけで全てを残そうとはっていない。
財産を受け取るには、それ以に受け継いでほしいものがあるからだ。
の気持ちを額で測らないこと。
自分に理解できないものでも、誰かが切にしているなら粗末にしないこと。
古くなったからといって、価値までなくなるわけではないこと。
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そして、くなったへのいを笑わないこと。
あの、彩は妻のエプロンをゴミ袋へ入れた。
そのの笑顔を、私は今でも々いす。
「お母さんの匂いがして気持ち悪いので、全部捨てておきましたよ」
あの言葉も忘れない。
けれど同じに、私はもう1つ忘れられない言葉を聞いた。
「でも、おじいちゃんの事なものだもん」
向の言葉だ。
まだ幼い孫にとって、妻の形見の価値など分かるはずがない。
それでも向は、私が切にしているという理由だけで、そのエプロンを守ろうとしてくれた。
それで分だった。
本当に切なものには、値段がついていない。
何使った古いエプロンでも、誰かのが詰まっていれば、何千万円の預よりくなることがある。
反対に、どれだけきな財産を目のにしても、それを見た瞬だけ態度を変えるに、本当ので切なものを託すことはできない。
妻の柄のエプロンは今も、仏壇のにしまってある。
々取りして、そっと広げる。
褪せた。
妻が直した縫い目。
何も使われ、し柔らかくなった布。
それを見るたび、妻が台所にっていた姿をいす。
そして私は、あのの向のさなもいす。
いつかこの形見を渡すが来るまで、私が守っていこう。
財産より先に伝えたいものがある。
妻が族を切にしたこと。
そのいを、私が切にしていること。
それを理解してくれるにこそ、残したものを託したい。
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