"消えた指輪と義父の手帳" 第1話
「美咲さん、あなたでしょう?」
夕、義母の藤原富美子がそう言って、いハンカチをテーブルのへ広げた。そこには何も乗っていなかったが、63歳の富美子は、その空そのものが証拠であるかのように29歳の美咲を見ていた。
「何がですか?」
「指輪よ。お父さんからもらったダイヤの指輪」
美咲は箸を置いた。
富美子の夫・俊夫は3にくなっている。結婚30周のに俊夫から贈られたという指輪で、富美子は普段ほとんどにつけず、仏のさな引きしへしまっていると何度か話していた。
「なくなったんですか?」
「今のお昼に見たらなかったの」
富美子は即座に答えた。
その横では、美咲の夫・亮介が困った顔をしていた。34歳の亮介は内の宅設備会社に勤めており、母と妻ので問題が起きるたびに、いつも同じ表をする。
「母さん、ちゃんと探したのか?」
「探したわよ。何度もね」
富美子は息子を見たあと、すぐ美咲へ線を戻した。
「昨の夜、仏に入ったでしょう?」
美咲はいした。
確かに入った。
夜11頃、洗濯物を取り込んだ、仏の窓がしいていることに気づいた。がり始めていたので閉めただけだ。
「窓を閉めに入りました」
「引きしもけた?」
「けてません」
「でも、あなたしか入ってないのよ」
富美子はちがり、棚のに置いてある型モニターを持ってきた。
広告
半、富美子が「最物騒だから」と言って玄関と廊へ設置した防犯カメラだった。スマートフォンからも確認できるもので、富美子は来客があるたびに誰が何に来たか確認している。
映像には、午1114分。
美咲が仏へ入る姿が映っていた。
その約2分。
てくる。
「これ見ても違うって言うの?」
「私、窓を閉めただけです」
「そのに何をしたかまでは映ってないでしょう」
富美子の調には、最初から答えが決まっていた。
美咲は義母と同居して2になる。
亮介と結婚したには別のアパートにんでいたが、半、富美子が階段から転落してを骨折した。退院しばらく暮らしが難しいという理由で、亮介から「半だけ」と頼まれ、夫の実へ移った。
半は。
1になった。
そして2になった。
富美子のはとっくに治っている。
それでも同居は終わらなかった。
「この広いし、賃ももったいないでしょう」
富美子はそう言った。
亮介も、
「母さんにするの配だし」
と言った。
美咲も最初は理解しようとした。
しかし実際に暮らし始めると、富美子は何かにつけてをした。
噌汁がい。
洗濯物の干し方が違う。
亮介のワイシャツへアイロンをかけていない。
休に朝9まで寝るのは嫁としてだらしない。
美咲宛ての荷物が届けば、
「また買ったの?」
広告
と聞く。
仕事から帰るのが30分遅ければ、
「女のがそんなまでにいるものじゃない」
と言う。
美咲はドラッグストアで登録販売者として働いていた。シフト制のため夜8まで勤務するもあるが、富美子は最まで理解しなかった。
それでも。
指輪を盗んだと言われるのは別だった。
「私じゃありません」
美咲はもう度はっきり言った。
富美子がで笑った。
「じゃあ誰なの?」
「分かりません」
「このにいるのは私と亮介とあなたよ。亮介が私の指輪なんて取るわけないでしょう」
その瞬。
美咲は夫を見た。
亮介は目をわせなかった。
「亮介」
「うん」
「あなたも私だとってる?」
夫はすぐには答えなかった。
「そういうことじゃないよ」
「じゃあどういうこと?」
「母さんも興奮してるし、今は回落ち着こう」
美咲には、その言葉が何より嫌だった。
母親を止めない。
妻を信じるとも言わない。
ただ、が過ぎれば問題がくなるのを待つ。
いつもの亮介だった。
富美子は続けた。
「指輪だけじゃないのよ」
美咲が顔をげる。
「先、私の財布から3万円なくなった」
「そんな話、初めて聞きました」
「言わなかっただけ」
「どうして?」
「亮介に配かけたくなかったから」
美咲は妙な違を覚えた。
先。
3万円。
そんな話を今まで度もしていなかったのに、指輪がなくなった今になって突然てくる。
「その3万円も私が取ったって言いたいんですか?」
富美子は答えなかった。
答えないことが。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
閉じ込められた臨月の妻
妊娠38週、予定日まであと12日の加奈。夫が海外出張へ出た2日後、突然訪ねてきた義両親は「様子を見に来た」と言いながら、家事や学歴を責め続けた。そして義母に促され、家庭用サウナの中を確認しようと入った瞬間、背後で扉が閉まる。外側には南京錠。スマートフォンまで奪われた。「私たちから息子を奪った罰よ」。そう言い残し、義両親は5泊7日の温泉旅行へ出発した。水もなく、いつ陣痛が始まってもおかしくない密室。しかし加奈には、義両親が知らないことがあった。このサウナは、かつて一級建築士だった加奈自身が安全設計に関わった機種だった――。嫁姑|親子関係|修羅場2.0万字5 0 -
完結第11話
席次表から消された母
25年間、血のつながらない息子・亮を育ててきた奈津子。 幼い頃の発熱、不登校、受験、就職、そして結婚。どんな時もそばにいて、亮からはずっと「母さん」と呼ばれてきた。 しかし結婚式を目前にしたある日、夫は奈津子に告げる。 「本当の母親へ席を譲ってくれ」 突然現れた亮の実母・真理子。奈津子は自分の25年間が否定されたような痛みを抱えるが、式の3日前、真理子から思いがけない連絡が届く。 「私は、あなたの席を奪いたいなんて一度も言っていません」 さらに明かされたのは、亮に毎年送られていたはずの手紙の存在だった。 なぜ手紙は届かなかったのか。 誰が、二人の母親と一人の息子の時間を止めていたのか。 結婚式直前、25年間隠されてきた家族の嘘が静かにほどけ始める――。絶縁|親子関係1.7万字5 0 -
完結第11話
夫の娘は、私にだけ謝った
結婚34年目、夫は突然こう告げた。 「娘が見つかった。だから離婚してほしい」 夫には、結婚前に生まれていたもう一人の娘がいた。しかも夫は、その娘のために今の家庭を離れ、父親としてやり直したいと言う。 しかし、真由美が初めて会った“夫の娘”綾香は、なぜか彼女に頭を下げた。 「私のせいで離婚しないでください」 夫は本当に、最近になって娘の存在を知ったのか。なぜ綾香は、父親ではなく真由美に会おうとしたのか。 やがて明らかになるのは、36年前に封じられた手紙と、12年前から夫が隠し続けていた事実だった。 突然現れた娘は、家庭を壊しに来たのではなかった。 34年続いた夫婦の中で、誰も口にしなかった本当の問題を、静かに照らし出していく――。夫婦|親子関係1.6万字5 0 -
完結第10話
「冷たい嫁」と書かれた分担表
義母の介護を一人で背負うことを断った佐和子に、夫は冷たく言い放った。 「介護をしないなら、遺産は弟夫婦に譲る」 これまで買い物も通院も掃除も、黙って引き受けてきたのは佐和子だった。それなのに、義母の家で現金が消え始めると、疑いの目は真っ先に彼女へ向けられる。 さらに見つかったのは、義母が書いたはずの《佐和子さんがしたこと》というノート。そこには、覚えのない失敗や盗みの記録が並んでいた。 本当に義母の思い込みなのか。 それとも、誰かが佐和子を“悪い嫁”に仕立てようとしているのか。 介護、遺産、家の売却、消えた薬――。 家族のために我慢し続けてきた妻が、ようやく自分の人生を取り戻すまでの物語。兄弟姉妹|嫁姑|相続|介護1.4万字5 0 -
完結第13話
古い工場を渡された嫁
食品会社を一代で守ってきた山代会長は、ある夜、庭で長男夫婦の会話を偶然聞いてしまう。 「お母様、これから先どれだけ生きられるかしら」 信じていた嫁が、自分の命も会社も、すでに財産として数えている――。その一言をきっかけに、会長はある決断をする。 自分は重い病にかかり、会社も危機にある。そう家族に告げ、2人の嫁に後継者を決めるための試練を与えたのだ。 華やかな長男の嫁・彩佳には会社を。 不器用で人の良すぎる次男の嫁・ユナには、地方にある廃業寸前の古い工場を。 誰もが、勝者と敗者は決まったと思っていた。 しかし3か月後、会社を手に入れた嫁と、古い工場へ送られた嫁の運命は、誰も予想しなかった形で逆転していく――。兄弟姉妹|嫁姑|相続|親子関係2.0万字5 0 -
完結第11話
ママ卒業の代償
7歳の孫・ひなが、突然学校へ行けなくなった。 息子夫婦から頼まれ、しばらく預かることになった私は、玄関に立つひなの姿を見て言葉を失う。昔はよく笑い、庭を走り回っていたあの子が、まるで感情をなくしたように無表情になっていたのだ。 声をかけても返事はなく、夜中には眠りながら何度も「ママ、ごめんなさい」と繰り返す。学校で何かあったのだと思っていた私たち夫婦は、ひなを責めず、ただ安心できる場所を作ろうとした。 少しずつ笑顔を取り戻していくひな。そんなある日、一緒にクリスマスケーキを作っていると、彼女は涙を浮かべてこう言った。 「助けて。私を、この家の子供にして」 その一言で、私たちは本当の異変に気づき始める。 ひなが怖がっていたのは、学校ではなかった。そして、母親がネット上で見せていた“理想の母親像”には、誰も知らない大きな嘘が隠されていた。 それから16年後。 パティシエになったひなのもとへ、1本の電話がかかってくる。そこから明かされたのは、あの日すべてを捨てて“ママを卒業した”女の、その後の姿だった。祖父母と孫|親子関係1.7万字5 0 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9万字5 0 -
完結第9話
家族じゃないなら、援助も終わり
63歳の遠藤由美子は、ある日突然、息子夫婦から8500万円のタワーマンション購入の連帯保証人になってほしいと頼まれる。 「形式的なものだから」 「親なら普通、協力するでしょう」 そう言われても、由美子は簡単に頷けなかった。退職後の老後資金まで巻き込む大きすぎる借金。しかも息子夫婦は、すでに物件を申し込み、由美子が保証人になる前提で話を進めていた。 断った瞬間、息子は言い放つ。 「保証人にならないなら、もう家族じゃない」 さらにその夜、銀行からの確認電話で、由美子は信じられない事実を知る。自分たちの預貯金額が勝手に書類へ記載され、1000万円の援助まで予定されていたのだ。 誰が、いつ、なぜそこまで知っていたのか。 親の愛情を当然の権利だと思い込んだ息子夫婦と、初めて「援助しない」と決めた母。 家族という言葉の裏に隠れていた歪みが、静かに崩れ始める――。絶縁|親子関係1.4万字5 0 -
完結第11話
祖父を迎えた家に福が来た
祖父が最近、どこかおかしい。 そう感じた恵子は、夫の匠とともに実家を訪ねるたび、祖父の表情が少しずつ暗くなっていることに気づいていた。兄夫婦と同居しているはずなのに、服はいつも同じ、部屋は荒れ、食事もろくに取れていないように見える。 ある日、祖父はぽつりと呟いた。 「もうダメじゃ……」 不安を覚えた恵子が確かめてみると、そこには想像以上にひどい現実があった。兄嫁は祖父を邪魔者のように扱い、さらに年金手帳や通帳まで握っていたのだ。 「うちで一緒に暮らそうよ」 恵子と匠は祖父を連れ出し、新しい生活を始める。少しずつ笑顔を取り戻していく祖父。だがその後、思いもよらない知らせが届く。 祖父が突然、3億円もの財産を相続することになったのだ。 そのお金をめぐって、祖父を粗末に扱ってきた兄夫婦の本性が、ついに世間の前で暴かれていく――。祖父母と孫|絶縁|親子関係1.6万字5 0