"尋ね人が呼んだ母の旧姓" 第2話
いつもよりずっとく、抑えた声だった。
「俺と結婚するに、子どもがいたのか」
夫は布団ので目をいた。
胸の奥がく脈打った。
自分は15歳。
ラジオで読みげられた女性は19歳。
4歳違いだった。
計算すれば、母が父と結婚するにんだ娘であっても、齢としては自然ではない。
それまで夫がっていた母は、ずっと「岡田文子」だった。
自分たち兄弟を育て、毎朝噌汁を作り、父の弁当を詰め、夜になれば破れた靴を繕う母。
その母に、自分たちのらないがあった。
しかもそののに、「娘」がいたかもしれない。
夫はその夜、なかなか眠ることができなかった。
翌朝、夫はいつもよりく目を覚ました。
の朝はまだ暗く、障子の向こうにも分なるさがなかった。普段ならこのには台所から包丁の音が聞こえ、噌汁の匂いが部まで届いてくる。
だが、そのは静かだった。
夫は布団から起きがり、着を羽織って茶のへた。
台所に母はいなかった。
も入っていない。
ちゃぶ台のに、枚のが置いてあった。
父の清はすでに起きていて、そのを黙って見ていた。
夫も横から文字を読んだ。
「京へってきます。夕方には戻ります」
それだけだった。
「母さん、どこにったの?」
清は答えなかった。
を折り、胸のポケットへしまった。
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やがて、文子が始発にい列で京へ向かったことが分かった。
昨夜の「尋ね」の放送を頼りに、何らかの方法で放送局へ問いわせたのだろう。清は詳しいことを子どもたちに話さなかったが、夫には目が分かっていた。
恵子という19歳の女性に会いにったのだ。
その、学へっても夫は授業に集できなかった。
黒板の文字をノートに写しながら、のでは昨夜の言葉ばかりが繰り返されていた。
「文子さんを探しています」
「母と記憶している」
自分には姉がいたのだろうか。
母は、なぜ15も何も言わなかったのだろう。
父はっていたのか。
考えても答えはなかった。
夕方、夫がへ帰ると、文子はすでに戻っていた。
いつもの掛けをつけ、台所にっていた。
まるで何事もなかったように夕飯の支度をしている。
だが、包丁を握るはいつもより遅かった。
「母さん」
文子は振り向かなかった。
「京へったの?」
「ええ」
「昨のに会った?」
しばらくして、文子はさく頷いた。
夫は次の質問をにするまでし迷った。
「その……母さんの娘なの?」
文子のが止まった。
包丁のには、切りかけの根があった。
い沈黙の、文子はさく言った。
「……私にも分からないの」
その答えは、夫をさらに混乱させた。
娘なら娘、違うなら違う。
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そう言ってくれればいい。
だが母自が「分からない」と言った。
夜になっても、文子は京で何を聞いたのか話さなかった。
清も問い詰めなかった。
夫婦のに、これまでなかった壁ができていた。
数、清は役へった。
子どもたちには何も説しなかったが、夫は父が母の戸籍を調べたことをでった。
そこには、恵子という娘の記録はなかった。
結婚に子どもを産んだという記載も見つからなかった。
清は母の昔をっていそうな者にも話を聞いた。
しかし、誰も恵子という名をらなかった。
「文子さんに結婚の子ども?」
尋ねられた々は揃って驚いた。
それでも、文子の態度は変わらなかった。
むしろ、ますますを閉ざした。
京へったから、以より物いに沈むことが増えた。
夕の支度をしながら急にを止める。
洗濯物を畳みながらくを見る。
夜、族が寝静まったも茶のに1で座っていることがあった。
夫は何度か話しかけようとした。
しかし母の横顔を見ると、言葉がなかった。
のでは誰も「恵子」の名をにしなくなった。
けれど、忘れた者は1もいなかった。
ラジオも以のように毎晩つけられていたが、「尋ね」のになると空気が変わった。
文子は台所へつ。
清は聞へ目を落とす。
夫も何も聞いていないふりをした。
そうして1週が過ぎた。
曜の午。
玄関を叩く音がした。
文子がちがろうとすると、清が先に腰をげた。
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