"退職と書かれた娘たち" 第6話
振り返ると舎監のトメだった。
「何してる」
「糸巻きを取りに」
「く戻りな」
フミはそのをれた。
例の娘。
その言葉がかられなかった。
数。
寄宿舎へ、フミ宛てのが届いた。
差の名はなかった。
粗末な封筒のには、さなが枚だけ入っていた。
〈倉庫の古い賃台帳を見て〉
それだけだった。
字を見た瞬、フミには誰からのか分かった。
千代だった。
布団ので何度も見た、しがりの文字。
フミはを握りしめた。
なぜ千代がの古い帳簿のことをっているのか。
誰から聞いたのか。
そして、そこに何があるというのか。
の古い帳簿は、事務棟の裏にある倉庫へ保管されていた。普段、女が入ることは許されていない。過の、欠勤、借り、寄宿舎費などが記されており、用があるのは事務員だけだった。
その夜、フミは眠れなかった。
もし見つかれば、違いなく解雇される。
それどころか、盗みの疑いをかけられるかもしれない。
故郷から届いた母のをいた。
〈清はこのごろ算術がよくできるようになりました。先から、学へかせてみてはと言われました。もちろんにそんな余裕はありませんが、あの子は嬉しそうでした。フミが送ってくれるに、皆助けられています。あとしだけ辛抱しておくれ〉
フミは何度もその文章を読んだ。
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弟を学へかせたい。
母を楽にしたい。
だから阪へ来た。
ここを追いされれば、全部が壊れる。
それでも、千代がわざわざ危険を冒してを送ってきた理由を無することもできなかった。
翌の夜。
フミは布団から抜けした。
寄宿舎の裏からへて、の壁沿いを歩いた。はに隠れ、敷には夜勤の建物から漏れるかりだけが落ちていた。
事務倉庫の裏窓は、完全には閉まらないことをフミはっていた。以、清掃を伝ったに見たことがある。
窓を押すと、わずかにいた。
体を滑り込ませると、埃と古の匂いがした。
棚には何冊もの帳簿が並んでいた。
フミはさな蝋燭にをつけ、代を確かめながら冊ずついた。
そして、半ほどの賃台帳のに、トヨの名を見つけた。
〈トヨ 19歳〉
その横には、欠勤の記録がいくつも並んでいた。
〈体調良〉
〈発〉
〈咳嗽〉
さらに、その度にから欠勤分が引かれている。
別の欄には、〈薬代〉〈診療代〉〈寄宿舎費〉〈借返済〉とかれ、残ったはわずかだった。
フミはさらに古いを探した。
冊の診療記録がてきた。
そこには付き医師の字で、こう記されていた。
〈胸部症状し。休養をす。作業継続望ましからず〉
付は、トヨがから消える2かだった。
フミのが止まった。
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医師は休ませるよういていた。
それなのに、トヨはそのも毎械のにっていた。
咳をしながら。
があっても。
休めばを引かれ、薬代まで差し引かれるから。
そしてさらに別のを見つけた。
事務員の覚だった。
〈借残あり。本より退職申しあるも認めず。完済まで就労継続〉
フミは息を呑んだ。
トヨは病気になったからを逃げたのではない。
病気なのに、辞めさせてもらえなかった。
だから志乃を頼った。
その、倉庫のから音が聞こえた。
フミは蝋燭を消した。
暗ので臓が激しく鳴った。
音は扉ので止まった。
誰かが鍵を回す音がした。
扉がゆっくりいた。
フミは帳簿を抱えたまま棚のにを潜めた。
入ってきた物はさな提灯を持っていた。
そのかりに照らされた顔を見て、フミは息を止めた。
舎監のトメだった。
トメは倉庫のを見回し、まっすぐ奥の棚へ向かった。そして何冊か帳簿を取りすと、へ置いた箱へ入れ始めた。
フミは違を覚えた。
その箱の横にはを燃やした跡があった。
のには、まだ完全に燃え切っていない片が残っている。
トメは古い記録を処分しようとしている。
フミが棚のからようとした、元の片を踏んだ。
乾いた音がした。
トメが振り返った。
「誰だ」
提灯のがこちらへ向いた。
フミは逃げられないと悟り、ゆっくりちがった。
「フミ?」
トメの顔が張った。
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