"退職と書かれた娘たち" 第11話
「母ちゃんだけのせいじゃないよ」
誰かが悪かったわけではない。
貧しさがあり、借があり、族があり、があり、そこにきるための仕組みがあった。
だから皆、「仕方がない」と言った。
その言葉は便利だった。
自分が苦しいことも。
を苦しませることも。
どうにもならないこととしてみ込ませてくれる。
しかしフミは、あの帳簿を見た夜からしだけ変わった。
「仕方がない」と言われた、本当にそうなのかを度考えるようになった。
それだけだった。
それでも、その度の問いがを変えることもある。
正7。
阪のつの紡績から、毎ずつ若い女が姿を消していた。
会社の帳簿には、ただ言、
〈退職〉
と記されていた。
キヨ。
ハナ。
トヨ。
千代。
そして、にも名をられないままをった娘たち。
から見れば、彼女たちは単なる退職者だった。
しかし、その文字の向こうには、それぞれ違う事があった。
父親の借の代わりに結婚を決められた娘。
故郷へ戻れば、別の奉公先へ送られる娘。
病気でっていることさえつらいのに、借を理由に辞めることを許されなかった娘。
そして、誰かに「逃げてもいい」と言われるまで、自分に逃げる権利があることさえらなかった娘。
トヨだけは戻らなかった。
彼女がくなった事実は、何経っても変わらない。
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志乃も々、「もっとく何とかできたかもしれない」とにした。
そのたび、フミは同じことを言った。
「志乃さんが逃がしたからんだんじゃない」
「逃げられるようになるまで、働かされてたんです」
誰がどこまで責任を負うべきだったのか。
フミには最まで分からなかった。
ただ、冊の帳簿に残されていたさな文字だけは消えなかった。
〈休養をす〉
〈退職申し〉
〈借残につき〉
の記録としてかれたその文字は、になれば誰かのそのものだった。
きな歴史のに残るのは、の数や産量、輸額、景気の数字かもしれない。
けれど、その械をかしていたひとりにも名があった。
帰りたいがあった。
帰りたくないもあった。
逃げたい所があり、ってみたい所があった。
数。
老いたフミは、自分の裁縫箱の奥に枚のを残していた。
正7に、千代から届いたさなだった。
〈倉庫の古い賃台帳を見て〉
たった。
あの、そのを無していたら。
フミはを辞めずに済んだかもしれない。
族への送も続けられた。
に目をつけられることもなかった。
もしかすると、その方が楽なだったのかもしれない。
けれどフミは、度も悔しなかった。
守ろうとしたものは、冊の帳簿ではない。
〈退職〉という文字だけで消されたことにされようとしていた、娘たちひとりのだったからだ。
そして何より。
あのフミが初めて守ったのは、自分自にも「嫌だ」と言う権利があるという、さな事実だった。
※本作は、正代の紡績業、女子寄宿舎、方から集められた女たちを取り巻く社会状況を背景にした創作説です。登物・・事件は架空のものです。
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