"預かったままの革靴" 第3話
それを見て、男は困ったように眉を寄せた。
「悪いな。これしかない」
健は差しされた貨を見た。
決してくはなかった。
それでも、宿代のしにはなった。
「いいよ」
健はをした。
男は銭を渡したも、そのをれなかった。
「坊主」
「はい」
「、濡れてるだろ」
健は自分の元を見た。
靴の隙からが入り、靴は完全に濡れていた。
「丈夫」
「丈夫じゃないだろ」
「慣れてるから」
男は黙った。
健は次の客を探そうと駅の方へ線を向けた。
すると男が突然、しゃがみ込んだ。
何をするのかとっていると、男は自分の靴紐をほどき始めた。
「え?」
の靴を脱ぎ、次にも脱ぐ。
健は慌てた。
「おじさん、何してるの」
男は脱いだ革靴を揃え、健の箱の横へ置いた。
「これ、預かってくれ」
「預かる?」
「ああ」
健はが分からなかった。
「もう磨いたよ」
「もうし直しておいてくれ」
男はのつま先を指で示した。
い傷が入っている。
次にのかかとを見せた。
「ここも減ってるだろ」
健は戸惑った。
「でも、俺、修理はできない」
「今すぐじゃなくていい」
「いつ取りに来るの?」
健が聞くと、男はしだけ考えた。
窓のではたいがり続いていた。
「かくなった頃かな」
男はそう言った。
それから背負っていた荷物をろした。
を探り、履を取りした。
まさかとったには、男はそれを履き始めていた。
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「おじさん」
「ん?」
「それで帰るの?」
「そうだ」
「寒いよ」
「丈夫だ」
「だってだよ」
健はわず声をきくした。
自分よりのに何かを言うことには慣れていなかった。それでも、その履でののを歩くことが無茶だということくらい分かった。
「靴、持っていきなよ」
男は笑った。
「俺はだから何とかなる」
「でも」
「それより坊主」
男は革靴へ線を落とした。
「ちゃんと取っておけよ」
「うん」
「なくすなよ」
「うん」
「じゃあ、頼んだ」
男は荷物を背負い直した。
履のでのへていく。
健は根のからその背を見ていた。
「おじさん!」
男が振り返った。
「かくなったら、本当に来る?」
男は瞬だけ黙った。
それからをげた。
「ああ」
それだけ言って、混みのへ消えていった。
健はい、その方向を見ていた。
やがて元の革靴へ目を落とした。
に濡れた駅で、その靴だけが妙に黒くっていた。
その夜、健は革靴を抱えて簡易宿泊所へ戻った。
自分の靴よりずっと派だった。サイズはきすぎたが、詰め物をすれば履けないことはなかった。
隣で寝ていたが見つけ、目を丸くした。
「それ、どうした」
「預かった」
「誰から」
「今の客」
「そんなの置いていく客いるかよ」
健は靴を自分の荷物の奥へしまった。
「になったら取りに来るんだ」
「本当か?」
「本当だよ」
その言葉を、健は自分にも言い聞かせていた。
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翌から、その革靴は毎朝仕事へ持っていった。
男が突然戻ってくるかもしれない。
来たにすぐ渡せるようにしたかった。
仕事が暇になると磨いた。
修理はできなかったが、革が傷まないようにを落とし、靴墨をく塗った。
が終わった。
3になるとがし柔らかくなった。
健は駅へ来るの顔を見る回数が増えた。
套を着た痩せた男が歩いてくるたび、を止めて目を凝らした。
違う。
次の男も違う。
4。
桜が咲いた。
「かくなった頃かな」
あの言葉をいした。
健は毎待った。
5。
昼は汗ばむも増えた。
それでも男は現れなかった。
「なあ健」
仲が革靴を見ながら言った。
「もうかいぞ」
「分かってる」
「来ないじゃん」
「忙しいんだろ」
「どこにいるかもらないんだろ」
健は答えなかった。
が来た。
駅の空気がくなり、面からむっとした匂いががるようになった。
革靴の男は来なかった。
が来た。
が来た。
あのから1が過ぎた。
「それ、やっぱりおにくれたんだよ」
仲に何度言われても、健は認めなかった。
「預かったんだ」
「だったら何で取りに来ないんだよ」
「らない」
「んだんじゃないのか」
健はい目で睨んだ。
「そんなこと言うな」
仲は肩をすくめた。
けれど健自も、しずつ分かり始めていた。
あの男は、最初から取りに来るつもりなどなかったのではないか。
革靴を修理してほしかったわけでもない。
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