"「冷たい嫁」と書かれた分担表" 第1話
「母さんの介護をしないなら、遺産は全部、浩たちに譲ってもらう」
夫の正志がそう言ったのは、義母の志津が台所で転んだ翌のことだった。幸い骨折はなかったが、78歳の暮らしをこのまま続けさせるのは配だと、夕の卓に夫と義弟夫婦が集まっていた。58歳の佐子は、4分の湯みを並べたまま、夫がにした「介護」という言葉のに、自分以の名がつもないことに気づいていた。
正志は会社員で、定まであと2。5歳の弟・浩は自部品会社の営業職で、その妻の美穂は週4、調剤薬局で事務をしている。佐子は結婚、センターを辞め、2の子どもを育てながらの仕事を続けてきたが、に勤めていた弁当が閉してからは無職だった。
「同居はしません。私で毎みることもできません」
佐子が答えると、正志は予していたように眉を寄せた。これまで佐子は週3回、バスで40分かけて志津のへ通い、買い物、掃除、通院の付き添いをしてきた。正志はに度顔をせばい方で、浩夫婦は正と盆以ほとんど来なかった。
「仕事もしていないのに、何ができないんだ」と正志は言った。「母さんはじゃない。おの親でもあるだろう」
「あなたの母親です。だから伝ってきました。でも、息子の代わりにはなれません」
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美穂が気まずそうに線を落とした方、浩は黙って腕を組んでいた。正志は、志津のと預をわせれば3000万円くになるはずだと言い、介護を引き受ける者がく受け取るのは当然だと続けた。しかし、志津はまだきており、財産をどうするか決めるのは息子たちではない。
佐子は域包括支援センターへ相談し、介護認定を申請すること、認定までのも族の担当を決めることを提案した。曜と曜は佐子、曜は正志、曜は浩夫婦。通院は息子2が交代し、買い物は宅配も利用する。それが佐子のした案だった。
「族なのに、表なんか作るのか」と正志は吐き捨てた。
「族だから作るの。曖昧にすれば、結局いちばん断らないに全部集まるから」
話しいは決まらないまま終わった。翌朝、正志は佐子が作った分担表を卓に置きりにして勤した。のには、赤いボールペンできく《たい》とかれていた。
佐子が分担表を作ったのには、もうつ理由があった。3か、志津が内障の術を受けた際、正志は「仕事を休めない」、浩は「方への張がある」と言い、入院の準備から退院の点まで佐子に任せた。ところが、親戚のでは2とも「族で支えた」と話し、佐子が毎朝5半にをたことには触れなかった。
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それ以にも似たことは何度もあった。志津が庭でをひねれば病院へ連れていき、役所から類が届けば読みげ、が壊れれば修理を配した。それらはつつならさな用事だったが、予定を空け、話を待ち、失敗すれば責められる負担は、用事の数だけ佐子の活へ積もっていた。
そのの午、志津から話があった。声は震えていた。
「佐子さん、私の通帳を持っていったでしょう」
佐子は、寝にも入っていない。そう説しても、志津は「あなた以に誰がいるの」と繰り返した。話の向こうで引きしをけ閉めする音が続き、最に志津はい声で言った。
「介護を嫌がるだけじゃりなくて、今度はおまで取るのね」
志津の通帳は、仏壇の経机のから見つかった。翌、正志と佐子が訪ねると、志津自がそこへ移したことをいしたが、謝りはしなかった。「寄りを疑わせるようなことをする方が悪い」と言い、佐子が作ってきた煮物には箸をつけなかった。
それからもさな紛失が続いた。財布に入れていた1万円が5000円だけ減り、封筒に分けた町内会費がなくなった。佐子が訪問した翌に見つかることがかったため、志津は親戚や所のへ「嫁がおを抜いている」と話すようになった。
正志は事実を確かめようとせず、へ戻るたび佐子へ説を求めた。
「母さんが嘘をつく理由がない」
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