"家族写真の左端" 第5話
着流し姿のまま。
特別な正装もせず。
写真ので、まっすぐを見ていた。
それが今回、偶然族写真へなった男の姿だった。
「伯父は、そのどうなったんですか」
清郎が尋ねた。
きぬはしばらく答えなかった。
やがて、さな声で言った。
「横浜へったよ」
宗吉はハナとともに横浜へた。
当の横浜には、糸を扱う商や国との取引に関わる者が集まっていた。信州の町で育った宗吉にとっては、これまでとはまったく違う世界だった。
「宗吉は、そこで輸商の仕事を覚えたそうだよ」
きぬは話を続けた。
「最初は苦労したとう。でも、あの子は昔から商売の勘だけはよかった」
をたあと、宗吉からきぬのもとへが届いた。
通目は、横浜へ着いてしばらくした頃だった。
無事に暮らしていること。
仕事を見つけたこと。
ハナも元気でいること。
それだけが簡潔にかれていた。
「父はそのを?」
清郎が聞くと、きぬは首を振った。
「見せなかった」
「どうしてですか」
「見せれば捨てられるとったからだよ」
通目も届いた。
商売をしずつ覚えている。
国へす糸の値段は、信州にいたとは見え方が違う。
いつか母にも横浜を見せたい。
そんなことがかれていた。
きぬは返事をいた。
元気でいるならそれでいい。
体だけは事にしなさい。
広告
ハナさんにもよろしく。
だが、通目のは来なかった。
「ずっと待ったんですか」
「待ったよ」
季節が変わるたびに、きぬは郵便が届くと宗吉からではないかとった。
へ来る横浜方面の商を見れば、それとなく息子の噂を聞いた。
けれど宗吉の話はなかなか入ってこなかった。
そして数。
通のらせだけが届いた。
宗吉が病気でくなったというらせだった。
清郎は膝のでを握った。
昨まで自分のらなかった伯父が、急に々しいとして胸のに現れた気がした。
を継ぐはずだった。
好きな女性を選んだ。
をた。
横浜で働いた。
そして若くしてくなった。
それだけでも分にい話だった。
だが、清郎にはまだ分からないことがあった。
「父は、伯父がくなったこともっているんですか」
きぬは頷いた。
「っているよ」
「それなのに、何も話さないんですか」
「源蔵にも、源蔵なりのいがある」
清郎は納得できなかった。
「でも、からいなかったことにするなんて」
きぬは孫の顔をじっと見た。
「おは宗吉のことをらなかったから、そう言えるんだよ」
「どういうですか」
「源蔵はずっと兄のろにいた」
宗吉がにいた頃、父親の期待はすべて男へ向いていた。
商売を覚えるのも宗吉の方がい。
と話すのもい。
広告
相を読むのもい。
弟の源蔵は、何かにつけて兄と比べられた。
それでも源蔵は兄を慕っていた。
兄が帳でそろばんを弾けば隣に座り、町へればついてった。
宗吉も弟を邪険にはしなかった。
「だから、宗吉がいなくなった、源蔵が番戸惑っていた」
突然、自分が跡取りになった。
それまで兄のろにいればよかったが、瀬を背負うことになった。
父親は厳しくなった。
「宗吉のようになるな」
何度もそう言われたという。
宗吉が優秀だったことをっていながら、その名をにすることは許されない。
源蔵は兄がいた所へ入るようにしてを継いだ。
「父は、伯父を嫌っていたんですか」
清郎が聞いた。
きぬは首を横に振った。
「嫌っていたなら、もっと楽だったろうね」
その言葉が、清郎にはすぐ理解できなかった。
きぬは続けた。
「源蔵は兄が好きだった。だからこそ、兄がいなくなったのできるのが苦しかったんだとう」
清郎は昨の父の顔をいした。
写真の男を見た瞬から、父はっていたのではない。
恐れているようにも見えた。
見たくないものを突然目のへされたの顔だった。
「でも、それだけではないんでしょう」
清郎が言った。
きぬが顔をげた。
「昨、写真を見たのおばあさまの顔……。ただ昔をいしただけじゃないように見えました」
きぬは答えなかった。
清郎はし迷ってから続けた。
「それに、父は乾板まで壊そうとしている。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
35万円の空冷蔵庫
大晦日、妻の弓が35万円かけて用意した正月料理が、冷蔵庫から一つ残らず消えていた。 持ち去ったのは、夫・健一の母と弟。松阪牛、タラバガニ、有名料亭のおせちまで奪いながら、彼らは笑ってこう言い残す。 「明日はカップ麺でも食べてなさい」 20年間、“長男の嫁”として姑に尽くし続けてきた弓。いつか本当の家族として認めてもらえると信じ、理不尽な仕打ちにも耐えてきた。 しかし、その夜、健一は知ってしまう。食材を奪っただけでは終わらない、母と弟が5年前から隠し続けていた金の秘密を。 元日の新年会。食卓に並んだのは、豪華な料理ではなく一箱のうどんだけ。 だが、襖の向こうには親戚たちが集まり、20年間隠されてきた佐藤家の本性を静かに聞いていた――。兄弟姉妹|夫婦2.1万字5 3 -
完結第10話
「冷たい嫁」と書かれた分担表
義母の介護を一人で背負うことを断った佐和子に、夫は冷たく言い放った。 「介護をしないなら、遺産は弟夫婦に譲る」 これまで買い物も通院も掃除も、黙って引き受けてきたのは佐和子だった。それなのに、義母の家で現金が消え始めると、疑いの目は真っ先に彼女へ向けられる。 さらに見つかったのは、義母が書いたはずの《佐和子さんがしたこと》というノート。そこには、覚えのない失敗や盗みの記録が並んでいた。 本当に義母の思い込みなのか。 それとも、誰かが佐和子を“悪い嫁”に仕立てようとしているのか。 介護、遺産、家の売却、消えた薬――。 家族のために我慢し続けてきた妻が、ようやく自分の人生を取り戻すまでの物語。兄弟姉妹|嫁姑|相続|介護1.4万字5 0 -
完結第11話
名札を戻せなかった夏
昭和19年、学童疎開の列車に乗った二人の少女は、ほんのいたずらのつもりで胸の名札を取り替えた。 「明日になったら戻そうね」 そう笑って交わした小さな約束。けれど、戦争はその約束を簡単には戻せないものにしてしまう。 東京大空襲、家族の消息不明、終戦直後の混乱。迎えのない子どもたちが不安の中で待つ寺に、ある日、一人の伯母が現れる。 「桐生美津子を引き取りに来ました」 その時、立ち上がったのは、本当の美津子ではなかった。 たった一枚の名札が、二人の人生を入れ替えてしまう。 そして21年後、古い疎開写真に残された違和感が、封じられていた真実を静かに呼び覚ます――。昭和1.6万字5 0 -
完結第11話
預かったままの革靴
昭和25年、戦後の面影が残る東京の駅前で、13歳の健二は靴磨きをして暮らしていた。 父は戦争から帰らず、母も亡くなり、頼れる人もいない。寒さと空腹に耐えながら、健二は毎日、通り過ぎる人々の靴を磨いていた。 そんな健二の木箱の横には、いつも一足の古い黒い革靴が置かれていた。 右のつま先には深い傷。左のかかとはすり減り、決して立派な靴ではない。それでも健二は、その靴だけは売ることも履くこともなく、何年も丁寧に磨き続けていた。 「取りに来るんだ」 そう言って、健二は持ち主を待ち続けた。 なぜ少年は、その一足を最後まで手放さなかったのか。 18年後、小さな靴修理店を開いた健二の前に、一人の老人が現れる。 古い革靴に込められていたのは、戦後を生きた人々の、名前も残らない小さな優しさだった――。昭和1.7万字5 0 -
完結第13話
古い工場を渡された嫁
食品会社を一代で守ってきた山代会長は、ある夜、庭で長男夫婦の会話を偶然聞いてしまう。 「お母様、これから先どれだけ生きられるかしら」 信じていた嫁が、自分の命も会社も、すでに財産として数えている――。その一言をきっかけに、会長はある決断をする。 自分は重い病にかかり、会社も危機にある。そう家族に告げ、2人の嫁に後継者を決めるための試練を与えたのだ。 華やかな長男の嫁・彩佳には会社を。 不器用で人の良すぎる次男の嫁・ユナには、地方にある廃業寸前の古い工場を。 誰もが、勝者と敗者は決まったと思っていた。 しかし3か月後、会社を手に入れた嫁と、古い工場へ送られた嫁の運命は、誰も予想しなかった形で逆転していく――。兄弟姉妹|嫁姑|相続|親子関係2.0万字5 0 -
完結第12話
欠陥品と呼ばれた歌姫
13年前、妹・恵は一枚の置き手紙を残し、夫と幼い娘を捨てて姿を消した。 「愛良はいらない。子どもを産めないお姉ちゃんにでもあげれば?」 傷ついた姪を放っておけず、桃江は妹の元夫・高也とともに、愛良を育てる道を選ぶ。血のつながりではなく、毎日の朝食と小さな約束を積み重ねながら、三人は本当の家族になっていった。 それから13年後。 美容室で桃江は、突然失踪したはずの妹と再会する。昔と変わらず、桃江を見下し、愛良を侮辱する恵。 だが直後、桃江を迎えに来た夫と、制服姿の少女を見た瞬間、妹の顔色が変わる。 彼女が捨てたものは、もう二度と取り戻せない場所にあった――。兄弟姉妹|修羅場1.8万字5 0 -
完結第10話
質屋に出された夫の時計
大正12年9月1日、関東大震災の混乱の中で、千代の夫・信介は日本橋近くの建築会社へ出勤したまま消息を絶った。 会社の建物は崩れ、火災も広がり、周囲は「もう助からないだろう」と口にした。けれど千代だけは、夫の死を受け入れられずにいた。 そんな中、近所の質屋から信介の懐中時計が見つかる。結婚の時、千代が贈った大切な時計。それを持ち込んだのは、信介とは別の見知らぬ男だった。 なぜ、夫の時計が質屋にあったのか。 さらに信介の机からは、千代の知らない鍵と、本郷の下宿の住所が書かれた紙片が見つかる。まとまった金の引き出し、汽車の切符、秘密の部屋――。 夫は震災を利用して、家族を捨てようとしていたのか。 疑いと悲しみに揺れる千代がたどり着いた先には、信介が最後まで隠し続けた、もう一つの真実が待っていた。昭和1.5万字5 0 -
完結第11話
退職と書かれた娘たち
大正7年、大阪の町外れにある紡績工場では、毎月のように一人の女工が姿を消していた。 帳簿にはただ「退職」と記されるだけ。だが、消えた娘たちの荷物は寄宿舎に残されたままだった。櫛、手鏡、故郷からの手紙、大切にしていた着物まで――本当に自分の意思で帰ったのなら、なぜ何も持っていかなかったのか。 16歳のフミは、その不自然さに気づきながらも、家族への送金のために黙って働き続けていた。 しかし、親友の千代まで突然「退職者」として消えた時、フミは初めて工場の闇に足を踏み入れる。 病気、借金、望まぬ縁談、そして古い賃金台帳に隠された記録。 「退職」という二文字の裏で、若い女工たちは何を奪われ、何を守ろうとしていたのか――。昭和1.6万字5 0 -
完結第10話
尋ね人が呼んだ母の旧姓
昭和33年の冬、夕食後の茶の間に流れていたラジオの「尋ね人」で、15歳の和夫は思いがけない名前を耳にする。 「旧満州より引き揚げた、旧姓・高橋文子さんを探しています」 それは、母の結婚前の名前だった。 さらに放送では、東京に住む19歳の女性が、文子を「母」と記憶していると告げられる。家族が凍りつく中、母は突然ラジオを消し、「知らない人よ」とだけ言って口を閉ざした。 翌朝、母は一枚の書き置きを残して東京へ向かう。 本当に母には、家族に隠していた娘がいたのか。なぜ戸籍にも記録がないのか。そして、戦後の混乱の中で文子がついた「ひとつの嘘」とは――。 ラジオから流れた一つの旧姓が、13年間閉ざされていた家族の過去を静かに開いていく。昭和1.5万字5 1 -
完結第10話
忘れられなかった一つの名前
昭和32年、父・佐藤隆一は、古びた軍服のボタンを何十年も大切にしまっていた。 家族が「もう捨ててもいいのでは」と言っても、父は決して手放そうとしなかった。 しかし、父の死後、そのボタンの裏に刻まれた見知らぬ男の名前が、息子・健一の知らなかった過去を呼び起こす。 なぜ父は、一つの古いボタンを守り続けたのか。 そこには戦争の記憶ではなく、時代を越えて守られた、一人の青年との約束が隠されていた――。昭和1.5万字5 0