"質屋に出された夫の時計" 第7話
千代はゆっくり封を切った。
はかった。
い説もない。
正の詳しい話もない。
信介らしい文章だった。
「千代へ。
し厄介な仕事を抱えている。
何も話さないことをるだろうが、ればおは止めるとう。
だから終わってから話す。
正しいとったことを見て見ぬふりをして、この先おと飯をう方が、俺にはつらい。」
そこで文章は終わっていた。
千代は度読み終えた。
また最初から読んだ。
度目。
文字が滲んで見えなくなった。
「……馬鹿」
声が漏れた。
「本当に馬鹿なんだから」
言相談してくれればよかった。
何が起きているのか教えてくれればよかった。
止めたかもしれない。
怖いからやめてと言ったかもしれない。
でも。
最には緒に考えたかもしれない。
どうして全部、で背負ったのか。
「そんなに私は頼りなかった?」
誰も答えない。
吉は静かにをげて帰っていった。
千代はその、革鞄をそばからせなかった。
夕方。
田所にもを見せた。
田所はしばらく黙った、帳簿の写しを確認した。
「これだけあれば、丸田組も言い逃れできないでしょう」
震災でくの類が失われた。
だからこそ信介が別の部へ隠していた写しはきなを持つ。
田所は関係者へ相談し、丸田組の正について正式に調べてもらうつもりだと言った。
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千代は頷いた。
夫が命がけで残したものを、無駄にはしたくない。
ただ。
千代にとって最も切なのは、会社の正そのものではなかった。
信介がどんな気持ちで最の々を過ごしたのか。
そのことだった。
からろした。
浦きの切符。
松葉荘の部。
隠された帳簿。
全部。
千代が度は「逃げる準備」だとったものだった。
今はが正反対になった。
会社から逃げるためではない。
会社の正から逃げないための準備だった。
千代は懐計を取りした。
あのから針は止まったままだった。
蓋をく。
「正74 千代より信介へ」
結婚した頃。
信介はこの計を受け取って、照れたように言った。
「いものを買ったな」
「事にしてくださいよ」
「ああ」
本当に事にしてくれた。
最のまで。
だからこそ、その計が信介の元をれたのは。
自分で放したからではない。
誰かを助けようとして、瓦礫ので落としたからだった。
季節がしずつへ向かっていた。
京にはまだ焼け跡が広がっていたが、々はそれでも活をて直そうとしていた。
千代もの修理を伝いながら、信介の残した物を理した。
松葉荘の部は引き払った。
机。
図面。
帳簿。
なものと、残すべきものをつずつ分けた。
女主は最に言った。
「旦さん、ここでよく遅くまでき物してましたよ」
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「そうですか」
「私はてっきり、仕事好きなだとってました」
千代はし笑った。
「そうだったんでしょうね」
部を借りていた理由が分かる。
千代は瞬、女のまで疑った。
い返せば恥ずかしかった。
でも。
自分を責め続けることもやめた。
何もらされていなかったのだから。
夫の計をらない男が持っていた。
秘密の鍵がてきた。
部を借りていた。
からをろしていた。
汽の切符まで買っていた。
それだけ見れば。
を捨てようとしていたとっても無理はない。
「あなたが悪いのよ」
懐計へ話しかける。
「何も言わないから」
しを置く。
「でも……私も悪かったのかな」
夫が何も言わないことを。
無だから。
仕事の話が嫌いだから。
そう決めつけていた。
もっと聞いていれば。
もっと夫の顔を見ていれば。
何か気づいたかもしれない。
けれど過ぎたは戻らない。
信介がどこで最期を迎えたのかも、最まで確認できなかった。
資材置き帯はきく焼けた。
崩れた建物もく、混乱ので運びされたの記録も完全ではない。
吉の話から、度はへ逃げたことだけは分かった。
職を助けるため戻った。
そして余震。
それ以の取りは途切れた。
田所は千代へ言った。
「信介君らしいといます」
「そうですか」
「昔から、が困っていると放っておけないところがありました」
千代にはしだった。
ではそんな話をしない。
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