"福嫁の逆転茶屋" 第5話
歯のそうな老女には、固い干菓子ではなく柔らかな餡の菓子を添える。
庭を何度も見る客がいれば、窓にい席へ案内する。
逆に、目を避けるように入ってきた客には、奥の席を勧める。
ある、馴染みの商が連れを伴ってやってきた。
連れの男は数がなく、商が話しかけても笑うだけだった。
宗介は等な菓子をそうとしたが、福が袖を引いた。
「今は、甘さを控えた方がよろしいかと」
「なぜだ」
「あのお客様、先ほどから何度もを召しがっています。お酒の翌かもしれません」
宗介は呆れた。
「そこまで見るのか」
「見ようとっているわけではございません」
福はし困ったように笑った。
「見えてしまうのです」
で商に聞くと、連れは夜の宴で酒をみすぎたばかりだった。
別のには、の女性客がさな子供を連れて訪れた。
子供はじっと菓子を見ている。
だが母親が、
「今は私のお供だから、あなたはなさい」
と言うと、しくを引っ込めた。
福は何も言わず、母親の菓子をしさく作り、余った分を別の皿へ乗せた。
「形が崩れてしまいましたので、よろしければ」
子供は母親の顔を見る。
母親は瞬ためらった、微笑んだ。
「いただきなさい」
子供は嬉しそうにべた。
帰り際、母親は福へさな声で言った。
「ありがとうございました」
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福はただをげた。
宗介はその部始終を見ていた。
ある夜、を閉めたで尋ねた。
「福」
「はい」
「なぜ、そこまで客のことが分かるのだ」
福はし考えた。
すぐには答えなかった。
「私は、子供の頃からのにるのが苦でした」
宗介は黙って聞いた。
「姉は美しかったので、どこへっても皆が姉を見ました」
福は笑った。
だがその笑顔には、しだけ昔の寂しさが混じっていた。
「親戚が集まるも、お客様がいらしたも、皆は姉を褒めました。髪が美しい、目が美しい、着物が似うと」
宗介の胸が僅かに痛んだ。
自分も同じだった。
初めて泉へった、福ではなくおばかりを見ていた。
「私は台所の隅にいることがうございました」
「辛くなかったのか」
「子供の頃は、し」
福は自分の丸いを見た。
「べることが好きでしたから、よく笑われました。姉と並べば、もっと笑われました」
宗介は何も言えない。
「でも、隅にいるとがよく見えるのです」
福は続けた。
「誰が無理に笑っているのか。誰が本当は寂しいのか。誰が甘いものをべたがっているのに、慮しているのか」
「それで客が分かるのか」
「全部は分かりません」
福は首を振った。
「ただ、分からないは余計なことをしないようにしております」
その答えが、宗介にはだった。
「分からないなら話を聞けばいいだろう」
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「話したくないこともございます」
福は静かに言った。
「苦しいほど、は理由を聞かれたくないこともあります。ただ温かい茶があればいい夜もあるといます」
宗介はその言葉を聞きながら、父の代からの泡をい返していた。
客を見ていたつもりだった。
好みの茶。
支払いの良さ。
分。
職業。
誰と来たのか。
そんなことは見てきた。
けれど、この男は今、何に疲れているのか。
この女は何を言わずに帰ろうとしているのか。
そんなことを考えたことはほとんどなかった。
福は客の懐を見ているのではない。
の居所を見ている。
そのことに気づいた頃、泡には以とは違う客が増えていた。
派な遊びを求める者ではない。
で静かに茶をみたい者。
く商いを続け、疲れた顔をした老。
嫁いだ娘をいす母親。
故郷をれた若い奉公。
彼らはきな声をさず、ゆっくり茶をみ、菓子をべる。
そして帰り際に、
「また来ます」
とさくをげる。
宗介は、父の代とは違う泡が形になりつつあることを認め始めていた。
だがその変化を、面くわない者がいた。
くで茶を営む吹の主、造である。
吹は泡よりきく、表通りにい。
造はがよく、役への贈り物を欠かさず、町の噂を集めることにもけていた。
泡の客が減っていた頃、造はしばしば笑っていた。
「あのも古いからな。いずれ簾をろすだろう」
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