"片胸の息継ぎ" 第3話
着のポケットや鞄を探しながら歩いている。
「こちらですか」
律子が子を見せた。
須賀の顔がるくなった。
「それそれ。すみません」
「更に落ちていました」
「最、何でも忘れるんですよ。じゃ女にられてばっかりで」
須賀は子を受け取ったが、すぐには帰らなかった。
「あなた、いつもいるですよね」
「曜と曜は体います」
「俺が溺れてるのも見てる?」
律子はし困った。
「泳いでいるのは見えます」
「泳いでるように見えるならありがたいな」
須賀は笑った。
律子もし笑った。
「どうして泳を始めたんですか」
聞くつもりはなかった。
それでも言葉がた。
須賀は瞬だけそうな顔をして、それから子を丸めながら答えた。
「孫です」
「お孫さん?」
「今度、学にがる女の子がいましてね。緒にへったんです」
須賀は壁にもたれた。
孫娘が浮き輪で遊んでいた、し沖へ流された。もちろんくに娘夫婦もいて、危険な状況にはならなかったが、須賀は反射に助けにこうとして、自分がまったく泳げないことをいした。
「のつかないところ、昔から駄目なんです」
須賀は言った。
「結局、娘婿が連れて戻ったんですけど、俺は岸でってただけでした」
「それで?」
「けなかった」
須賀は笑ったが、その声はし乾いていた。
「孫を助けたいなんてげさな話じゃないですよ。
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あんなさい子が平気でに入ってるのに、俺は70以、から逃げてたんだなとったら急に腹がってね」
「に?」
「自分に」
須賀は子を鞄へ入れた。
「せめて25メートルくらい泳いでからのうとって」
律子は瞬、返事ができなかった。
須賀はすぐに笑った。
「別に病気じゃないですよ。70過ぎたら、順番としてはいでしょう」
「そういう言い方は」
「嫌ですか?」
「嫌というか」
律子は言葉を探した。
「25メートル泳げたら、何か変わるんですか」
須賀はし考えた。
「分かりません」
それから付け加えた。
「でも、できないままぬのと、できてからぬのは違う気がする」
律子はその言葉をまで持ち帰った。
できないままぬ。
できてからぬ。
夕に分のうどんを作りながら、何度もいした。
自分には、そういうことがあるだろうか。
ぬまでに度してみたいこと。
昔からきたかった所。
べたかったもの。
会いたかった。
考えてみたが、何も浮かばなかった。
術、医師から癌だと告げられた夜にも同じことを考えた。
「もし治らなかったら何をしたいだろう」
しかし何もいつかなかった。
旅へきたいわけでもない。
豪華な料理をべたいわけでもない。
誰かに会いたいともわなかった。
それが番怖かった。
ぬかもしれないことより、ぬにしたいことが何もない自分の方が怖かった。
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結局、術は無事に終わった。
律子はき残った。
それから3。
ぬにしたいことがないまま、きていた。
次の曜、須賀はまた同じ所でをんだ。
森本が笑う。
「須賀さん、また吸おうとしましたね」
「当たりだろ。は吸うんだよ」
「先に吐くんです」
須賀は壁を掴みながら、何度もく息を吐いた。
律子はモップをかしながら、その姿を見た。
70以できなかったことを、いまさら覚えようとしている老。
何度失敗しても、次の本を泳ぐ。
その姿を見ていると、律子の胸の奥に、自分でも名をつけられないさな苛ちがまれた。
羨ましいのかもしれない。
そう気づいた、律子はし驚いた。
7の初め、娘の麻から話があった。麻は31歳で、夫の亮介と京で暮らしている。結婚して4になるが子どもはいないし、本も今のところ欲しいとは言っていなかった。
「お母さん、9の連休空いてる?」
「仕事あるとう」
「まだシフトてないでしょう」
「たぶんある」
「休み取ってよ」
律子は蔵庫のを見ながら答えた。
「何かあるの?」
「箱根かない?」
律子のが止まった。
「誰と」
「私と亮介と、お母さん」
「?」
「亮介のお母さんも」
「じゃない」
「そう。お義母さんが、うちのお母さんにも会いたいって」
律子はすぐに断る理由を考えた。
連休は混む。
値段がい。
仕事が休めるか分からない。
歩くと肩が疲れる。
いくつも浮かんだが、麻は先回りした。