"片胸の息継ぎ" 第6話
森本は別の利用者を教えていた。
律子は聞くつもりはなかった。
しかし閉館、器具を片づけている森本とになった、が先にいた。
「須賀さん、最来ませんね」
森本が顔をげた。
「ああ、奥さんが入院したんです」
「そうなんですか」
「転んで骨折したって。しばらく来られないといます」
律子はったよりく落胆した。
きな病気ではないらしい。
それでも、毎週そこにいたが突然いなくなると、番端のレーンが妙に広く見えた。
「25メートル、まだでしたよね」
「最21です」
森本が笑った。
「あと4メートルなのに」
「戻ってきますよ」
「分かりませんよ」
律子が言うと、森本はしそうにした。
「庭さん、須賀さんのこと結構見てたんですね」
「仕事に見えるから」
「応援してる?」
「別に」
反射に答えた。
森本は笑った。
「本に言ったらびますよ」
律子はそれ以話さず、ホースを片づけた。
その夜から、プールを見るがし変わった。
須賀がいないからのへ目が向いた。
杖をついてプールサイドまで来る女性が、へ入ると背筋を伸ばして歩いている。太った男性が、25メートル泳ぐたびに壁へしがみつきながら、それでもく往復している。柄な老が、ほとんどんでいないような平泳ぎでゆっくり泳ぎ続けている。
誰もきれいではなかった。
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競泳選のような体もいない。
腹がていたり、背が曲がっていたり、脚に傷があったりする。
それでものでは、体がつつ勝に何かをしている。
沈まないようをかす。
息がなくなれば顔をげる。
疲れれば止まる。
またけるとえば壁を蹴る。
律子はそれを見るのが好きになっていた。
美しいからではない。
むしろ格好だからよかった。
完璧ではない体が、それでもこうとしていることに目がせなかった。
箱根旅の週、麻がに来た。
「着持ってる?」
突然聞かれた。
「温泉で着着ないでしょう」
「ホテルにプールあるよ」
「入らない」
「お母さん泳げる?」
「応」
「じゃあ入れば」
「嫌」
麻は蔵庫から麦茶をした。
「傷?」
律子はため息をついた。
「何でも傷にしないで」
「じゃあ何で嫌なの」
「泳ぎたくないから」
「そう」
麻はすぐ引いた。
以なら、そのことにも腹をてたかもしれない。
聞くだけ聞いて、簡単に諦める。
本当に配しているならもうし言うべきではないか。
そうった期もある。
今は、に選択を残してくれているのだとし分かる。
「麻」
「何?」
「術のあと、私の体見た?」
娘のが止まった。
「見たよ」
「いつ?」
「退院した次の。お呂伝った」
律子は覚えていなかった。
「どうった?」
麻は麦茶の入ったコップを持ったまま考えた。
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「痛そうだとった」
「それだけ?」
「怖かった」
律子は顔をげた。
「私が?」
「違うよ。お母さんがいなくなるかもしれないって、まだってたから」
麻はし笑った。
「傷見て、ああ、本当に術したんだってった」
「気持ち悪くなかった?」
「何で?」
「形が違うから」
麻はすぐに答えなかった。
「お母さん」
「何?」
「私、お母さんの胸そんなに見てないよ」
律子は黙った。
「傷より、顔見てた。すごく疲れてたから」
その答えは、律子が3像していたものと違った。
は、自分が気にしているほどそこを見ていない。
よく聞く言葉だった。
けれど律子が初めて本当にをじたのは、そのだった。
麻が帰ったあと、律子は押し入れの奥を探した。
10以に買った黒い着がてきた。
サイズを見る。
今でも着られるかは分からない。
捨てずに、洗濯へ入れた。
箱根旅はっていたより普通だった。麻の夫の亮介と、その母親の弘子はよく喋るで、律子が黙っていても会話は途切れなかった。宿へ着くまでに蕎麦をべ、美術館へ寄り、夕方にはともし疲れていた。
貸切呂は、夕の5から45分だった。
麻が緒に入ろうかと聞いたが、律子はで入ることにした。
脱所にはきな鏡があった。
律子はを脱いだ。
胸が見える。
自宅と同じ体だった。
旅館の鏡だから違って見えるわけではない。
タオルで隠そうとして、やめた。
見ているはいない。
へる。
さな呂からはが見えた。
湯気。