"18万円の甘い嘘" 第9話
節子の顔から血の気が引いた。
「会社としても困るんですよ」
「もう来ないように言います」
「そういう問題じゃありません」
田はため息をついた。
「今いっぱいで契約を終わりにしてください」
「待ってください」
節子はちがった。
「仕事がないと困ります」
「もう決まったことです」
「これからちゃんとします。休みません。ミスもしません」
「桂さん」
田は目を逸らした。
「会社の決定です」
節子は何も言えなくなった。
廊へると、田がいた。
「桂さん?」
節子の顔を見るなり、田が駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「首になったの」
節子はそので泣きした。
田は休憩へ連れていき、隣へ座った。
「どうしてこんなことに……」
その言葉を聞いた、節子ので何かが切れた。
借。
涼介。
融会社。
騙された紹介サービス。
すべて話した。
田は途でを挟まなかった。
話し終えると、静かに言った。
「どうしてもっとく言ってくれなかったんですか」
「恥ずかしかったのよ」
「桂さん」
「62歳にもなって若いホストに騙されて、借まで作って……誰に言えるのよ」
田は節子のを握った。
「今からでも相談しましょう」
「もう遅いわ」
「遅くありません」
「仕事もなくなる。借もある。何もないのよ」
田は役所や弁護士へ相談するよう勧めた。
しかし節子は聞こうとしなかった。
「もう終わりよ」
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そのの帰り。
節子は公園のベンチへ座った。
子供たちが遊んでいる。
母親たちが笑っている。
普通の庭。
普通の活。
自分はどこでを違えたのだろう。
へ帰ると、今度は気料の最終通が届いていた。
節子はをへ投げた。
夜。
焼酎を本空けた。
酔ったまま宿へ向かった。
混みのを歩く。
伎町。
ネオン。
そしてムーンライト。
全ての始まりだった。
節子は入のでち止まった。
涼介がいるかもしれない。
会いたい。
たとえ全部嘘でも、もう度だけ笑ってほしい。
その、若い男に声をかけられた。
「お姉さん、どこか探してるんですか?」
客引きだった。
「おがないの」
節子は呟いた。
男は笑った。
「じゃあ稼ぎたい?」
その言葉に節子は顔をげた。
男についていくと、古いビルのへ案内された。
そこには数の男がいた。
髪の40代くらいの男が節子を見て笑う。
「かなりだな」
節子は俯いた。
「仕事を探しているんでしょう?」
男が説した内容を聞くうち、節子はそれが何をしているのか理解した。
らない男の相をする。
それでを得る。
「頑張れば借なんてすぐ返せる」
節子は震えた。
嫌だった。
屈辱だった。
それでも、
「分かりました」
と答えた。
翌の夜。
指定されたホテルへった。
部ので何度も帰ろうとした。
だが借のことを考え、扉を叩いた。
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にいた男は節子を見るなり言った。
「随分だな」
節子は唇を噛んだ。
部へ入る。
男の求を聞いた瞬、体がかなくなった。
その。
正雄の顔が浮かんだ。
結婚式の。
若い頃の夫。
器用だけれど、自分と緒に働き続けた。
「ごめんなさい」
節子は突然言った。
「やっぱりできません」
「は?」
「すみません」
節子は部からびした。
ろから鳴り声が聞こえた。
それでもった。
膝に激痛がった。
へたところでへ座り込み、声を殺して泣いた。
を稼げなかった。
借も返せない。
しかし、どうしても最の線だけは越えられなかった。
しばらくして歩き始めた。
そしてまたムーンライトへたどり着いた。
入でスタッフに止められた。
「申し訳ありません。当への入はお断りしています」
「涼介さんに会わせて」
「はもういません」
節子は顔をげた。
「え?」
「別のへ移りました」
「どこ?」
「分かりません」
節子はスタッフの腕を掴んだ。
「お願い。教えて」
「してください」
扉が閉まる。
最の希望まで消えた。
節子はへ座り込んだ。
しばらくしてちがり、あてもなく歩いた。
きなを見ろす歩へた。
のライトが流れていく。
節子はすりのでを止めた。
苦しみから逃げたい。
その考えしかなかった。
だが、背から警察官に声をかけられた。
「丈夫ですか?」
節子は振り返った。
何も言えない。
「何かありましたか?」
「何もありません」
ようやく答えた。
「帰ります」