"7階に戻るな" 第10話
健太は私と目をわせず、自分の両だけを見ていた。
「崖へった」
やがて健太が言った。「全部終わらせようとった。でも怖くてできなかった」と続ける。からりてガードレールのへったもののがかず、引き返した直、きちんとかけていなかったサイドブレーキがれ、だけが斜面へ落ちていったという。
私は息子を責めなかった。今は何より、さんのについて本のから聞かなければならないとった。
「健太、あののことを全部話して」
私が言うと、息子の肩がきく震えた。しばらく唇を噛んでいたが、やがて涙をこぼしながら話し始めた。
織の会社がおかしいことには、1以から気づいていたという。父親の会社名義を使った契約に自分が何度も署名していたことも途から分かっていたが、妻を問い詰めれば全部壊れるとい、見て見ぬふりを続けた。優郎がくなったあと、父が織を疑っていた事実までりながら、それでも健太は真実を見ることから逃げ続けた。
さんから「君の母親まで危ない」と聞いたも、健太は彼を信用できなかった。自分たちを脅して会社を奪おうとしているのだとい込み、直接話をつけるため5階で待っていた。そのタイミングで私がエレベーターに乗っていることをり、さんは慌てて私だけを先にろした。
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私がいなくなったあと、は激しく言い争った。健太は「おが父さんを追い詰めたんだ」「今度は母さんまで巻き込むのか」とさんへ詰め寄り、肩をく押した。さんはバランスを崩して属枠へ部を打ち、そのへ倒れた。
「でも、まだ息があった」
健太の声が震えた。「俺、救急呼ぼうとしたんだ。でも織が来て、今呼んだら全部終わるって言った」と続ける。健太は怖くなり、妻の言葉に従ってそのから逃げた。
さんをなせたのは、突きばした度だけではなかった。救えたかもしれないを見捨て、自分を守るために逃げたことこそ、健太が耐えられなくなった理由だった。
「母さん、ごめんなさい」
健太はソファから崩れるようにへ膝をついた。「父さんにもさんにも、母さんにも、取り返しのつかないことをした」と泣き続けた。その姿を見ても、私はすぐ抱きしめることができなかった。
りもあった。しみもあった。自分が懸命育ててきた息子が、さからの命を見捨てたという現実を受け止めるには、あまりにもがりなかった。
それでも健太が今、目のできていることだけは確かだった。私はゆっくりへ膝をつき、震える息子の背へを回した。
「もうで隠さなくていい」
私は泣きながら言った。
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「でも、なかったことにもできないのよ」
健太は私の肩へ顔を押しつけ、子どものように泣いた。私は背をさすりながら、自分がこれから親として最も苦しい決断をしなければならないことを理解していた。
翌朝、健太はリビングのソファで眠っていた。泣き疲れた顔は幼い頃とよく似ており、私はブランケットをかけながら、30以にをした息子の額へを当てた夜をいした。あの頃なら薬をませて抱きしめれば守れたが、今の息子を救う方法はそれほど簡単ではなかった。
警察へ連れてくべきだとでは分かっていた。しかし母親としては、もうしを与えたい、逃がせるものなら逃がしたいというい気持ちもあった。自分が織と同じように「族を守る」という言葉を使って罪を隠し始めたら、どこが違うのだろうという恐怖もあった。
私は答えを求めるように優郎の斎へ入った。机、本棚、写真てをつずつ見ているうちに、部の隅にある古い耐庫が目に入った。、夫が「俺の棺桶みたいなもんだ」と笑いながら類を入れていた庫だった。
暗証番号は結婚記だった。ダイヤルを回すとい扉がき、権利や株券の奥にさな箱が置かれている。には本のカセットテープがあり、ラベルには優郎の字で《恵子へ》とかれていた。
斎の棚には古いラジカセも残っていた。
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