"捨てられた夏の肖像" 第1話
次女のがまれたのことを、私は10経った今でも鮮に覚えている。産声を聞いた瞬、胸に広がったのはただ堵とびだけで、まさか数にそのものをひっくり返されるとはにもっていなかった。さな指を握りながら、「無事にまれてきてくれてありがとう」と何度もので繰り返していた。
夫のが病へ入ってきたのは、産からしが経った頃だった。私は当然、女のがまれたと同じように、涙ぐみながら赤ん坊を抱いてくれるものだとっていた。ところがはベビーベッドを覗き込んだ瞬、笑うどころか眉にい皺を寄せ、そのでかなくなった。
「……何だよ、この顔」
最初は、赤ん坊の顔がまだ腫れていることを冗談めかして言っているのだとった。けれどは何度もの顔を覗き込み、私の顔と見比べたあと、今度は骨な嫌悪を浮かべた。女のはまれたからによく似ていたため、その違いが余計に気になったらしい。
「は俺にそっくりだっただろ。それなのに、この子は俺にも母さんにも全然似てない。体誰の子なんだよ」
「何を言ってるの。は違いなくあなたの子よ」
私が笑って否定すれば終わる話だとっていたが、は聞くを持たなかった。
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それどころか、以から答えを決めていたのように、「浮気しただろ」と断言したのである。その言葉を聞いた瞬、私は産直の疲れさえ忘れ、呆然と夫の顔を見つめた。
私には浮気などするも理由もなかった。当、はまだ2歳で、私は朝から晩まで育児と事に追われていたうえ、の母・澄と同居していたため、で自由にすることすらほとんどなかった。誰かと密かに付きうなど、現実に考えても能にかったのである。
それでもは、「俺の子ならどうして似てないんだ」と繰り返した。そこへ遅れて病へ入ってきた澄まで、赤ん坊を見るなり元を歪めた。私はその表を見て、だけではなく、義母もすでに何かを吹き込まれていたのだと初めて気づいた。
「やっぱりね。の言っていた通りじゃない」
「……何の話ですか」
澄は私の問いには答えず、の顔をじろじろと眺めたあと、「うちの血が滴も入っているようには見えない」と言い放った。さらに、「浮気相の子を産んでおいて、このの孫として育ててもらおうなんて図々しい」と続けたため、私はりより先に恐怖を覚えた。
が私の浮気を疑い始めたのは、どうやらこのが最初ではなかったらしい。振り返れば、妊娠の数ヶ、彼は帰宅が急に遅くなり、休勤も増えていた。
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同じ頃から澄が私を避けるようになり、理由を尋ねても「あなたが番分かっているでしょう」となことを言っていた。
当の私は、妊娠による体調の変化もあり、庭内の空気がおかしくなっていることに気づきながらく追及しなかった。からは「きなプロジェクトを任されている」と聞かされていたため、仕事のストレスで余裕がないのだとい込んでいたのである。だが今になって考えれば、あの頃からは私をから追いす準備をしていたのかもしれなかった。
「そんなに疑うならDNA鑑定をしましょう」
私は震える声でそう告げた。に覚えのない疑いをらすには、それが番確実だったし、結果がればも澄も謝ってくれると、このの私はまだ信じていた。父と母も病院へ駆けつけ、私の提案に賛成してくれた。
は瞬だけ黙った。
その表が妙に引っかかった。
本当に私の浮気を疑っているのなら、「そこまで言うならやってやる」と即座に応じるはずだった。しかしは線を逸らし、「そこまでして恥をさらしたいなら勝にしろ」と吐き捨てたのである。
数、正式な鑑定結果が届いた。
とのに、物学な父子関係が認められる。
結果はだった。
私はそのを両で握りしめながら、ようやく終わったとった。
これではの娘だと証されたのだから、なくとも娘に向けられた侮辱だけは撤回してもらえるはずだった。
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