"二十七年目の嘘" 第2話
「私は相談してほしかったのよ」
美智子の声が、っていたより鋭く尖った。
真由はを引いた。
「お母さん、昨お父さんのお葬式が終わったばかりだよ」
「分かってる」
「今そんな、くのこと蒸し返してどうするの? お父さん、もう何も答えられないんだよ。全部悪く捉えなくてもいいじゃない」
美智子はそれ以、言葉を返せなかった。
全部悪く捉えるな。
歳の娘にとって、父親は「守ってくれた」だった。
美智子にとっても、そうだったはずだった。
けれど、胸の奥で、眠っていた何かが軋む音をてていた。
落ちたんじゃない。
私は、あの会社に受かっていた。
そして夫は、話を取り、私に言も告げず、私の名で断った。
美智子は通を取りげ、何も言わずに斎へ戻った。
引きしの奥には、まだ何かがあるような気がした。
也の斎は、几帳面な彼らしく、類が代順に分類されていた。
いちばんの引きしをさらに引きすと、奥に隠すように置かれたの茶封筒があった。
表に、也のさな字で「M」とだけかれている。
美智子は息を詰めて、そのを引きした。
に入っていたのは、何枚もの写真のコピーだった。
古いアパートの階段。
裏で干されているあせた洗濯物。
がりのたまりに映る商の板。
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使い込まれて角の丸くなった製のまな板。
美智子が、独のころから撮りためていた写真だった。
なぜ也がこれを持っているのか。
写真のから、美智子が学の卒業制作としていた企画のコピーがてきた。
表には、若々しい自分の丸文字が残っていた。
『暮らしの跡を撮る』
品の宅ではなく、が暮らすことで刻まれる傷やあせこそが、族の記憶になる。
そんなテーマでいた、拙い企画だった。
美智子はわず元を押さえた。
也は、これをずっと持っていたのか。
私のを、覚えていてくれたのか。
真由の言ったとおり、夫なりの器用なだったのだろうか。
そういかけた美智子の指先が、ファイルの番底にあった冊のパンフレットに触れた。
也が勤めていた、宅メーカーの販促パンフレットだった。
の付。
表には、ある普通の戸建ての玄関が写っていた。
品のモデルルームではない。
脱ぎ散らかされたつきの靴。
かかとのすり減った革靴。
柱に刻まれた、子供の背丈の印。
そして、きなキャッチコピー。
『暮らしたが、になる。』
美智子の全から、すっと血の気が引いた。
企画のに、自分がいた節があった。
「とは建物そのものではなく、暮らした跡の積みねである」
パンフレットの最終ページをめくる。
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制作スタッフの欄に、太い活字が並んでいた。
企画・総ディレクション 佐伯也。
美智子の臓が、の奥で激しく音をて始めた。
也が社内で表彰され、係から課へ異例のスピード世を果たしたきっかけの企画だった。
あの、佐伯はこの阪部の庭つき戸建てを購入した。
「お父さんが会社できな賞を取ったから、このが買えたのよ」
美智子は幼い真由と健に、何度もそう言い聞かせてきた。
父親を誇りにいなさいと、教え続けてきた。
けれど、その企画の根底にあったのは、美智子が捨てさせられたはずの、彼女自の差しだった。
美智子はパンフレットをく握りしめた。
の端が、ぐしゃりと音をてて折れた。
パンフレットをめくる美智子のは、かすかに震えていた。
どのページを見ても、見覚えのある構図ばかりだった。
台所の流し台のに敷かれた、し擦り切れたマット。
が差し込む廊と、そこに落ちる子どものおもちゃの。
美智子が学代に撮り歩き、卒業制作のファイルに収めていた「常の痕跡」そのものだった。
もちろん、写真はプロのカメラマンがしく撮り直したものだ。
けれど、の当て方、切り取る角度、そして何より「活の傷をおしむ」という線は、美智子自のものだった。
也は昔、美智子の写真を見てこう言っていたはずだった。
「こういうのは、趣でやるからいいんだよ」