"二十七年目の嘘" 第7話
也がこんなところにしまっていたのだ。
美智子はケースからカメラを取りした。
レンズキャップをし、ファインダーを覗いてみる。
黒い枠のに、散らかった斎の景が角く切り取られた。
シャッターを切ってみる。
カシャリ、と乾いたよい属音が響いた。
まだ、く。
レンズにはカビもえておらず、ファインダーのガラスも澄んでいた。
也が定期に入れをしていたのかもしれない。
そんな余計な優しさに、また胸が痛んだ。
美智子はカメラを胸に抱いたまま、に座り込んだ。
翌朝、美智子は駅の古い商へ向かった。
何もに寂れてしまった通りに、昔からある個経営のカメラがまだ軒だけ残っていた。
ガラス戸をけると、乾いた薬品の匂いがした。
カウンターの奥から、髪の主が顔をした。
「いらっしゃい……おや、佐伯さんの奥さん?」
「ご無汰しています、島さん」
島は、美智子がくに毎のようにフィルムの現像を頼んでいた主だった。
美智子はカウンターに古いカメラを置いた。
「これ、まだ使えますか? フィルムを詰めてみたくて」
島は鏡を押しげ、懐かしそうにカメラを持ちげた。
裏蓋をけ、シャッタースピードを変えながら何度も空シャッターを切る。
「綺麗に使ってるねえ。
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油も切れてないし、計の池さえ替えれば完璧だよ。……旦さんが々、持ってきてたんだよ」
美智子の息が止まった。
「主が……ですか?」
「そうだよ。数に度、『妻の古いカメラなんですが、錆びないように点検してください』ってね。ご自分では撮らないのに、いつも事そうに持ってこられてね」
島は微笑みながら、棚の奥から枚撮りのカラーフィルムを取りした。
「奥さん、また撮るのかい? 昔はいい写真、たくさん撮ってたもんね。商の裏ばっかり撮るから、変わったお嬢さんだなとってたけど、来がった写真はどれもあたたかくてさ」
美智子は喉がつかえて、うまく声がなかった。
「……ええ。し、散歩でもしようかとって」
島にフィルムの装填をしてもらい、カメラを受け取った。
ずしりとした属のみが、のひらに戻ってきた。
也は、カメラを守っていた。
妻の才能を奪い、自分の柄にしながら、同にその才能の残骸を必で保しようとしていた。
その矛盾だらけの勝さが、たまらなくしく、そして許せなかった。
美智子はカメラを首から提げ、宅を歩き始めた。
の初めのが、宅の根を吹き抜けていく。
歩きながら、美智子はファインダーを覗いた。
数ぶりの世界は、驚くほど鮮に見えた。
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スーパーの駐輪にめられた、錆びた子乗せ自転。
カゴに無造作に突っ込まれたネギ。
庭先で向ぼっこをしている老犬と、擦り切れたリード。
興宅にはない、が削りした々の活の輪郭。
美智子の指が、自然とシャッターを押していた。
カシャリ、カシャリと、指先に伝わる反。
写真を撮っているだけは、也のことも、真由のことも、から消えっていた。
ただ、目のにある「誰かがきてきた痕跡」に、が吸い寄せられていった。
夕方、美智子は民センターのを通りかかった。
掲示板に貼られた枚のポスターが目に留まった。
『第15回 この町の記憶と暮らし写真展 公募作品募集』
域の民が撮した、町の常景を展示するさな公募展だった。
入賞しても賞がるわけではない。
ただ、センターのロビーに週展示されるだけの催しだった。
美智子はち止まり、そのポスターを見つめた。
昔の自分なら、こんなさな民展など目もくれなかったかもしれない。
京の雑誌社で、きな仕事をしたいと見ていたのだから。
けれど今の美智子には、その「町の常」という言葉が、やけにく響いた。
私は、この町で暮らしてきた。
専業主婦として、買い物袋を提げ、子供のを引き、この町の面を踏みしめてきてきた。
そのは、本当に「無」だったのだろうか。
ただ夫に奪われただけの、空のだったのだろうか。
美智子はカメラへ戻り、島にフィルムを預けた。