"二十七年目の嘘" 第8話
「急ぎでお願いできますか」
「いいよ。の夕方には焼いておくよ」
島は嬉しそうに頷いた。
翌の夕方、現像されたプリントを受け取った。
角いのに定着した写真は、どれも驚くほど静かで、力かった。
夕暮れの踏切でを待つ女子学のろ姿。
閉際の百の先で、段ボールを畳む主の曲がった腰。
そして、ある古い造平の玄関先に、無造作に並べられたの靴。
のついたスニーカー、すり減ったサンダル、さな子供の履き。
かつて也の会社のパンフレットに使われたものとは違う、今、この町にきている誰かの活の跡だった。
美智子はそのから、玄関の靴の写真を枚選び、応募用に名をき入れた。
題名、『ただいまの所』。
撮者氏名、佐伯美智子。
夫の名でも、母という肩でもない。
ぶりに、自分の名を作品の横に記した。
その類を民センターの窓に提した帰り、美智子のスマートフォンが震えた。
見慣れない固定話の番号だった。
恐る恐る通話ボタンを押す。
「もしもし、佐伯ですが」
「あ、佐伯さんの奥様でしょうか。突然申し訳ありません。私、也さんの元同僚の藤本です」
昨会ったばかりの、あの藤本だった。
声がし切迫しているように聞こえた。
「藤本さん、どうされましたか?」
広告
「実は……昨お会いした、どうしても奥さんにお伝えしておかなければならないことができまして」
藤本は周囲を気にするように声を潜めた。
「也の会社、覚えていますよね。来、創周の記式典をやるんです」
「ええ、案内状が届いていました」
也がくなった直だったため、美智子は欠席の返事をしていた。
「その式典でね、歴代の代表なプロジェクトをパネルにして展示する企画があるんです。……あののパンフレットが、その目玉のつに選ばれたそうなんです」
美智子のが止まった。
夕暮れの歩で、き交う々の音がのいていく。
「目玉、ですか」
「ええ。『が社の転換点となった伝説のキャンペーン』として、当のパネルや企画を再現して飾るらしいんです。もちろん、プロジェクトリーダーとして、也の名が々にされます」
藤本はいため息をついた。
「昨、奥さんの話を聞いていなければ、何もわなかったはずなんです。でも……あれはおが作ったんじゃない、奥さんのノートからまれたものだったとってしまった以、このまま何も言わずに展示されるのを見ていられなくて」
美智子は握りしめたスマートフォンの向こうに、の夫の顔を見た気がした。
也は、んでなお、美智子の名を塗りつぶし、完璧な功績のに閉じこもろうとしている。
広告
「藤本さん」
美智子の声は、自分でも驚くほど静かだった。
「その展示の責任者の方は、どなたですか」
藤本から教えられた名は、広報宣伝部で周プロジェクトの責任者を務めている野という代の男性だった。也の直属の部だった期もある男だという。
翌の午、美智子は阪内にある夫の勤務先の本社ビルを訪れていた。
、夫が毎通っていた所だった。
ガラス張りのエントランスはたい空気が張り詰めており、スーツを着た社員たちができ交っている。
妻として夫の職にを踏み入れるのは、入社員の族向け見学会以来、ぶりだった。
受付で名を告げると、案内されたのは応接だった。
分ほど待つと、きちんとしたなりの男性が入ってきた。
「佐伯さん、この度は本当にご愁傷様でした。お線もげに伺えず、申し訳ありませんでした」
野はくをげた。
「いえ、突然お伺いして申し訳ありません。野さん、お忙しいところおを取っていただいて謝します」
「也さんには本当にお世話になりましたから。私のような者が責任者を務める記式典ですが、也さんの残されたきな跡を、社内にしっかりとお見せしたいとっているんです」
野は誇らしげに語った。
その顔には、尊敬する先輩の功績を称えたいという純粋な敬が浮かんでいた。