みかん小説
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"身代わりの爪痕" 第4話

声の温度は零度だった。

「いいえ……そんなこと」

「僕は君に、嘘をついたことがあるかい? 自由ないをさせたことがあるかい?」

拓真の指先が、志乃の顎へとがってきた。 逃げのない力で、志乃の顔を向かせる。

「君は、里帆さんのように愚かな選択をしないと信じているよ。……さあ、けて」

拓真はリンゴの切れ端を、志乃の唇へと押し当てた。 志乃は震える唇をき、それをみ込むしかなかった。 甘いはずの果汁が、ひどく苦くじられた。

の午。 拓真が勤し、敏恵の監の目がないを見計らって、志乃は実へと向かった。 どうしても確かめなければならなかった。

古びた造平の実は、に父がくなって以来、荒れ果てていた。 居では、母の悦子が昼からテレビのワイドショーを眺めて煎餅をかじっていた。

「あら、志乃。ぶらで来たの? 神さんからのお産は?」

母は娘の顔を見ても、配する素振りすら見せなかった。

「お母さん。聞きたいことがあるの」

志乃は居がり込み、母のに正座した。

「神さんって……拓真さんって、里帆お姉ちゃんと結婚する、誰かと婚約していたの?」

悦子のが、空で止まった。 元に運ぼうとしていた煎餅が、指から滑り落ちて畳のに転がった。

母の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。

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「な、何を馬鹿なこと言ってるのよ……!」

悦子の声が裏返った。 彼女はがり、逃げるように台所へ向かおうとした。

「そんな昔のこと、るわけないでしょ! あんた、神さんにあんなに良くしてもらっておいて、恩らずなことを嗅ぎ回るんじゃないわよ!」

「お母さん、ってるんでしょ!? 、何があったの!?」

「うるさい! きなさい!」

悦子は叫びながら台所へと駆け込み、扉を乱暴に閉めて鍵をかけてしまった。 でやかんをにかける音が聞こえ、母の荒い息遣いが漏れてくる。

その過剰な拒絶が、何よりの答えだった。 母は、っているのだ。最初から、すべてを。

志乃は悔しさに唇を噛み締めながら、廊へと引き返した。 その、廊の突き当たりにある、かつて姉とで使っていた物置部の引き戸が、わずかにいているのが目に入った。

には、に姉が失踪したの荷物が、段ボール箱に詰め込まれて埃を被っていた。 母が「忌々しい」と言って放り込んだままの荷物だ。

志乃は吸い寄せられるようにその部に入り、番奥にあった段ボールの蓋をけた。

姉が用していたバッグ、雑誌、そして学代のアルバム。 その底、古い箱のに隠されるようにして――黒い布に包まれた、平たい物体があった。

布をめくると、それは画面の隅が蜘蛛の巣のようにひび割れた、古いスマートフォンだった。

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姉が、あの嵐の夜、肌さず持っていたはずの私物。 なぜ、ここに残されていたのか。

志乃は震える指で、そのスマートフォンの源ボタンを押しした。

数秒の、液晶画面にかすかなが宿った。

志乃は液晶の青を見つめたまま、息を止めていた。

台所の奥では、母がやかんをにかけたまま、ブツブツと何事かを呟いている気配がする。いつ扉をけてこちらに来るか分からない。 志乃は音をてないようにスマートフォンの源を度落とし、それをハンカチに包んでトートバッグの底くに滑り込ませた。

「お母さん、もう帰るね」

に向かってく声をかけたが、台所の扉は閉ざされたまま、何の返事もなかった。 ると、ぬるいが吹き抜けた。、姉が姿を消したあの嵐の夜とは違い、空はく濁ったが淀んでいるだけだった。

自宅に戻る途のファミレスに入り、番奥のボックス席に座った。 平の午内には主婦のグループが組いるだけで、静まり返っている。

志乃は震える指先で、姉のスマートフォンをテーブルので取りした。 再び源を入れる。 パスコードの入力画面が現れた。桁の数字。

志乃は迷わず、姉の誕である「0418」をタップした。 カチリとさな解除音が鳴り、が止まったままのホーム画面が表示された。

は、どこかの岸で撮られた青空の写真だった。

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