"身代わりの爪痕" 第5話
通欄には、の――結婚式の付で、未読のメッセージや着信履歴が数件残されている。母からのヒステリックな着信が何件も並んでいたが、拓真からの着信は、の昼に度あったきりだった。婦が逃げたというのに、拓真は度もこの端末に話をかけていなかったのだ。
志乃はメモ帳のアプリをいた。
画面の番に、付のない「無題」のメモが保されていた。 タップしていた瞬、志乃の喉からさな息が漏れた。
『あのは普通じゃない。 笑顔のに、何もがない。 私が結婚式の引き物のカタログを見せても、「君の好きなようにしていいよ」としか言わない。 でも、私の選んだものを、次のには全部自分の指定した業者に変えている。 私の携帯のロック画面を、寝ているに指を当てて解除していたのを見た。 怖くてたまらない』
い改の連続。文字の乱れから、姉がどれほどの恐怖のでこれを打ち込んでいたのかが伝わってきた。
メモはさらにに続いていた。
『ポストに差のない封筒が入っていた。 には便箋が枚だけ。 「神拓真と結婚してはいけない。あいつは私の娘を殺した」 警察に相談しようとしたけれど、お母さんは「名に嫁ぐ直に揉め事を起こすな」とを破り捨てた。 あの母親は駄目だ。
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私のことなんて見ていない。神のしか見ていない。 自分で調べた。 にんだ婚約者の名。 倉科美加(くらしな・みか)』
メモは、そこで唐突に途切れていた。
志乃は帳型のスマートフォンケースの奥から自分の端末を取りし、検索バーにその名を打ち込んだ。
「神拓真 倉科美加」
検索ボタンを押す。 画面が切り替わり、方ニュースのアーカイブ記事が数件ヒットした。
見しを読んだ瞬、志乃の指先から温度が急速に失われていった。
『県内宅で女性が、入浴に急性全か』 付は、今からちょうどの。
記事の本文には、こうかれていた。 《内の会社員・倉科美加さん(当)が、婚約者である神建設専務・神拓真氏の自宅浴で倒れているのを、帰宅した神氏が発見。病院に搬送されたがが確認された。警察は事件性はないものとみて……》
志乃のので、昨自宅を訪れた換気扇の点検作業員の言葉が、鋭く蘇った。
――あの鍵のせいでからけられなくて、でがくなったっていう事故があったんですよ。
志乃はスマートフォンを握りしめたまま、テーブルので震えていた。 、拓真の自宅の浴で、婚約者だった女性がくなっていた。 姉の里帆は、その事実をったからこそ、あの嵐の夜にまみれになりながら逃げしたのだ。
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そして――拓真も、義母の敏恵も、そのことを志乃に度も話したことはなかった。
夕方半。 志乃はスーパーで買った材の袋を抱え、い取りで神の玄関をけた。
「ただいま戻りました」
誰もいないはずの暗い廊の向こうから、靴音が響いた。 普段ならきっかりにしか帰宅しないはずの拓真が、すでにスーツの着を脱ぎ、腕まくりをした姿でっていた。
「おかえり、志乃。し遅かったね」
拓真は穏やかに微笑みながら、志乃のからスーパーの袋を受け取った。
「す、すみません。買いしにし取ってしまって……」
「いいよ。事故に遭ったんじゃないかと、配していただけだから」
拓真の指先が、志乃の頬に触れた。 え切った志乃の肌とは対照に、彼の指は微かに湿り気を帯びて温かかった。その温もりが、今の志乃には猛毒のようにじられた。
夕の準備も、志乃の線は無識にリビングの飾り棚へと向いていた。
棚の引きしの奥には、結婚当初に拓真から贈られたベルベットの宝箱がある。 に入っているのは、精巧な透かし彫りが施されたアンティークのゴールドブレスレットだった。央にさなサファイアが埋め込まれ、留め具の部分には独特の編み込み模様が刻まれている。
婚初夜、拓真は志乃の首にそれを嵌めながら、こう言ったのだ。
『これは、僕にとって何よりも切な宝物なんだ。