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"身代わりの爪痕" 第7話

「そんな……切なものなら、どうして私に……」

志乃が震える唇で問いかけると、拓真は慈しむように志乃の頬に自らの額を寄せた。

「君が、僕の妻だからだよ。美加が使っていた番良いものを、今の妻である君に受け継いでほしかった。僕たちの庭を守るために、過しみもすべて君に預けたかったんだ。……それとも志乃、僕が過していたことが、そんなに許せないかい?」

言葉の刃が、巧みにすり替えられていく。 すべては「妻への信頼」であり「純粋な」であるかのように、拓真の甘い声が志乃の考を麻痺させようとしていた。

「いいえ……そんなことは……」

「そうだよね。君は里帆さんと違って、物分かりのいい優しい子だ」

拓真の腕に、ぐっと力が込められた。 あばら骨がきしむほどの圧迫。志乃が苦痛に顔を歪めると、拓真はすぐに力を緩め、満そうに囁いた。

「過を詮索するのは、お互いのためにならない。今の幸せだけを見ていればいいんだよ。……いいね、志乃」

その夜、志乃はもできなかった。 隣で規則正しい寝息をてる拓真の背が、まるで巨な怪物ののように見えて仕方がなかった。

翌朝、拓真が勤するのを見届けると、志乃は財布とスマートフォンだけを握りしめ、逃げるようにび乗った。 向かった先は、再び実だった。

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今度は、引きがるつもりはなかった。 母の悦子がどれだけ鳴ろうと、扉を閉ざそうと、真実を聞きすまではテコでもかない覚悟だった。

過ぎ、実の引き戸を乱暴にける。

「お母さん! いるんでしょ、てきて!」

の引き戸をけると、悦子が古びた仏壇のに座り込み、背を丸めていた。 昨のようなりの形相はそこにはなく、たださく、老のように肩を震わせていた。

「お母さん、全部ったわ。神拓真のの婚約者がどうやってんだのかも、お姉ちゃんが何に怯えて逃げたのかも」

志乃が畳のち尽くし、たく言い放つ。

「どうしてお姉ちゃんの代わりに、私をあのに差ししたの? 私を殺させる気だったの!?」

悦子はゆっくりと振り返った。 その顔は涙とでぐしゃぐしゃに汚れ、目のには黒々とした隈が張り付いていた。

「……仕方なかったのよ」

悦子のから漏れたのは、掠れた言い訳だった。

「お父さんがんだの設備投資で残した借百万円あったの。連帯保証は私だった。毎、取りての話が鳴り止まなくて……神建設の請けだったから、拓真さんのお父さん……のところに泣きついたのよ」

「……借?」

「会は言ったわ。『拓真にいい嫁を寄越すなら、百万の債権は神で買い取って帳消しにしてやる』って」

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志乃は息を呑んだ。

「最初は里帆の予定だった。里帆も最初は乗り気だったのよ、相企業の専務なんだから。でも……あの子は結婚式の直に、興信所を使って拓真さんの過を洗っちゃったのよ。の婚約者がで溺れんだこと、遺族が『拓真に殺された』って騒いで民事裁判を起こしかけていたこと……全部、突き止めちゃったの」

「お姉ちゃんは、それをって逃げたのね……」

「そうよ!」

悦子は突然、狂ったように声を張りげた。畳をバンと叩き、志乃を見げる。

「あの子は逃げた! 自分だけ助かろうとして、ウェディングドレスを脱ぎ捨てて逃げしたのよ! 式当の朝、拓真さんのお母さんがここに来て何て言ったとう!? 『嫁が来ないなら、借百万円を今すぐ全額括で返済していただきます。利息をつけて千万円です』って言われたのよ!」

悦子の顔が、醜い絶望と欲で歪んでいく。

「払えるわけないじゃない! 払えなかったら、このも取られて、私はに迷うところだったのよ! だから……だからあんたをかせるしかなかったんじゃないの!」

志乃の全から、すうっと血の気が引いていった。

姉の代わり。 名の体裁。 世体のための形だけの結婚。

すべては、嘘だったのだ。

志乃は、百万円の借のカタとして、実の母親に売りばされたのだ。

の婚約者が審なを遂げた、あの恐ろしい男の元へ。

「志乃……お願いよ」

悦子が畳のいずり、志乃の元に縋り付いてきた。

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