"身代わりの爪痕" 第11話
そして、あいつののままにならなくなったある夜……普段の倍以の薬を盛られて湯に沈められたのよ。事故に見せかけてね」
激しい吐き気が志乃を襲った。 喉の奥をで押さえ、乾燥の壁に背をもたれかけさせる。 今夜、もしあののミルクをんでいたら。もし、浴の窓をけたまま湯に浸かっていたら。 自分は今頃、の美加さんと同じように、たいので物言わぬ骸になっていたかもしれない。
「お姉ちゃん……私、どうすればいいの? 警察にっても、母さんは借のために神の方をする。私の言うことなんて、誰も信じてくれない……」
「逃げるだけじゃ駄目よ、志乃」
里帆が志乃の両をく握りしめた。 そののひらは、かつて員だった頃の柔らかさは失われ、過酷な逃活を物語るようにく、節くれっていた。
「警察をかすには、現の決定な証拠がいるの。美加さんのお母さんと弁護士がずっと会を窺っていたけれど、神の敷居はすぎてがせなかった。でも……にいるあなたなら、が届く」
「証拠って……何を?」
「拓真の斎よ」
里帆の瞳が、暗ので獲物を狙う獣のようにった。
「あいつには、異様な執着癖と収集癖があるの。自分が支配したものの記録を、すべて保管せずにはいられない異常者よ。
広告
斎の奥の隠し庫に、美加さんの形見や記……そして、あいつが裏ルートでに入れている眠薬の現物が保管されているはずよ」
「庫……」
志乃は息を呑んだ。 拓真の斎には、本棚の裏に隠された埋め込み型の型庫があることをっていた。拓真が留守のも、斎だけは常に厳に施錠されていた。
「暗証番号は桁。……たぶん、あいつにとって『完全な支配』を達成した付よ。美加さんがんだか、あるいは……」
里帆の言葉が途切れた。
「……あるいは、私とあいつが結婚式を挙げるはずだった、」
志乃の全に、鳥肌がった。 戻らなければならない。あの悪魔の棲む館へ。 証拠を掴み、自分を売りばした母と、自分を飼い殺しにしてきた夫の息の根を止めるために。
「乾燥が終わるわ」 里帆が計を見つめた。
「スマートフォンを持ってに戻りなさい。夜、あいつが寝静まった……斎に入るのよ。私はこのくでを待させておく。証拠をに入れたら、すぐにへなさい」
「うん……!」
志乃はランドリーからホカホカに温まったコートと羽毛布団を取りし、バッグに詰め込んだ。 は依然としてり続いていたが、もうの震えは止まっていた。
午。 神邸は、んだように静まり返っていた。
寝のキングサイズベッドでは、拓真が規則正しい寝息をてて眠っている。
広告
志乃はパジャマのに黒い袖のシャツを着込み、ベッドから音もなく滑りた。 スリッパは脱ぎ捨て、裸でたいフローリングを踏みしめる。
階段を軋ませないよう、壁に体を預けながら階の廊をむ。 斎のドアノブにをかけた。 昼、拓真が鍵を閉め忘れるはずはない。だが、志乃のには、洗面所からくすねてきた本の細いヘアピンが握られていた。
内鍵のラッチ部分にピンを差し込み、慎に角度を探る。 カチリ、とさな属音が暗に響いた。
志乃は息を殺してドアを押しけ、滑り込むようにへ入った。 遮カーテンが引かれた内は、完全な漆黒だった。 スマートフォンの画面のるさを最にし、元だけを照らす。
本棚の段目、分い建築鑑を取りすと、壁に埋め込まれたのテンキー式庫が現れた。
桁の番号。 志乃は震える指を伸ばした。
まず、美加さんの命。「1124」。 ピー、というい拒絶音が鳴り、エラーランプが赤く点滅した。違う。
や汗が背を伝う。回連続で違えれば、警報が鳴るかもしれない。
姉と結婚するはずだった。「1015」。 志乃がボタンを押した瞬――。
カシャリ、となロックがれる音がした。
扉を引く。 には、然と類が並べられていた。
番にあったのは、製薬会社のロゴが入った、ラベルのないのPTPシート――眠導入剤の錠剤だった。
数錠が、すでに使われて空になっている。