"午前五時の朝餉" 第5話
プラスチックが乾いた音をててを転がり、壁に当たって止まる。
それだけでは収まらず、志保は調理台の炊飯器へ両を伸ばした。
「やめろ、母さん!」
ガシャァァン!
健の制止もにわず、志保は炊飯器を抱えげ、シンクのへ叩きつけた。
い粥がび散り、ステンレスの壁と志保の首にべっとりと張り付く。
湯気が激しくちる、志保は激しく息を乱し、に散らばった粥を踏み躙った。
「あんたね!」
志保がいきなり健を指差した。
髪を振り乱し、唾をばしながら、息子を睨みつける。
「あんたがやってるんでしょう! 加奈子の仕業に見せかけて、私を狂わせる気ね!」
「何を言ってんだ! 俺がこんなことするわけないだろ!」
「嘘をおつき! 会社の資繰りがき詰まってるからって! お父さんの遺産はもう全部使い果たしたから、今度は私のとこのを担保にする気でしょう!」
志保の声は裏返り、切り声となって狭い台所に響き渡った。
「あの薬のをってるのは、このにしかいなかった! 私と、あんたと、加奈子だけよ!」
「声をすな!」
健は志保の肩を掴み、乱暴に揺さぶった。
「階に蓮がいるんだぞ! 聞こえたらどうするんだ!」
「聞こえたって構うもんですか!」
志保は健のを振り払い、その胸板を両で激しく突きばした。
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恐怖で完全に正気を失った老女の顔には、かつて嫁をいたぶり、を支配していた威厳など欠片も残っていなかった。
「脅してを巻きげる気なら、警察に全部言ってやるわ! お父さんが胸を押さえて倒れた夜、救急を呼ぼうとした私を止めたのはあんたよ! 『今でしい保険の免責期が切れるから、あと待て』って言ったのはあんただ!」
「黙れ!」
健の号が壁を震わせた。
だが、志保のは止まらなかった。
溜め込まれた罪悪と猜疑が、破裂した汚のように溢れす。
「あの薬をゴミ箱に捨てたのは、あんたじゃない!」
台所が、んだように静まり返った。
換気扇の回るい音だけが、のに横たわっている。
キィ、とさな軋み音がした。
台所と廊を隔てる引き戸が、数センチだけいていた。
その隙に、制のブレザーを着た蓮がっていた。
通学用のリュックを肩にかけたまま、微だにせず、父親と祖母を見つめている。
その瞳には、涙の粒すら浮かんでいなかった。
ただ、底れない暗のようなたさだけが宿っていた。
蓮は何も言わずにをてった。
健が背に向けて放った「蓮、待て!」という鳴り声も、先の湿ったに溶けて消えた。
学へったのかどうかも分からない。
健は会社に「親族に急病がた」
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と虚偽の連絡を入れ、午からの捜索を始めた。
加奈子はどこかにいる。
部から侵入された形跡がない以、あの女はこののどこかに潜んでいるはずだった。
「お化けなわけがあるか」
健は独り言を吐き捨てながら、階の納戸のにった。
築の造宅。
だが、、健自の会社の配で、階の台所と回り、そして階の部を規模にリフォームしていた。
健は建築資材のプロだ。
構造の隙、配管のスペース、が隠れられる空の目はつく。
自のデスクから、の設計図面を引っ張りしてきた。
青焼きの図面をリビングのテーブルに広げる。
志保はソファーの隅で毛布にくるまり、ぶつぶつと仏のような繰り言を呟き続けていたが、健はそれを完全に無した。
図面を指でなぞっていく。
階の対面キッチン。
その背にあるパントリー。
そして、勝へ続く通の壁面。
「……おかしい」
健の指が止まった。
キッチンのパントリーの奥きは、図面ではセンチと記されている。
だが、健の記憶にある棚のさは、せいぜいセンチ程度だった。
残りのセンチはどこへった?
背は、の庫に面した壁のはずだった。
だが、庫側から見れば、そこには何の自然さもないトタンの壁が続いているだけだ。
みがおかしい。
壁と内壁のに、設計図にはないセンチの「空洞」がしている。
健の脳裏に、のリフォーム事の記憶が蘇った。