"午前五時の朝餉" 第11話
「加奈子……!」
健は歯を剥きしにして唸った。
「お……蓮を抱き込みやがったな! 実の親を警察に売り渡すように仕向けたのか!」
加奈子はち止まり、に転がる夫を見ろした。
その目には、りも、復讐を遂げた揚もなかった。
ただ、端に落ちている見らぬ瓦礫を見るような、徹底な無関だった。
「蓮が自分で決めたのよ」
加奈子の声は静かだった。
「あの子はね、あなたたちの嘘を守るために自分のを捨てるのを拒んだの。ただそれだけ」
加奈子は健から線を逸らし、調理台へと歩み寄った。
い蒸気を吐きし続けている、あの炊飯器のへ。
を帯びたプラスチックのボディにを伸ばす。
加奈子はポケットからのシリコン製鍋つかみを取りし、躊躇なく蓋のフックを押しげた。
バチン、とい音がして、蓋がねがった。
薬品の混ざったいが気に吹き荒れる。
刑事たちが歩ずさりし、元を腕で覆った。
湯気の、内釜の底に沈んでいたのは、米ではなかった。
耐ガラスでできた、角い密閉保容器。
その透なケースのに、然と並べられていたのは、のあの夜の残骸だった。
央には、半分だけ押しされたままのニトログリセリンの錠剤シート。
その横には、健の指紋がくっきりと残された、販の眠導入剤の空き瓶。
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そして、志保が「ゴミ箱に捨てた」と叫んでいた、祖父の血濃度を偽装するために使われた未認の健康品の末袋。
すべてが、湿気とから守られるよう、真空パックで何にも封印されていた。
「これ……どういうことだ」
健が掠れた声を絞りした。
「なんで……気が通ってないのにいてたんだ……! コードは抜けてたはずだ!」
加奈子は内釜の奥、板の隙を指先で軽く示した。
そこには、リフォームに加奈子が組み込ませていた、業用の型リチウム蓄池モジュールが型基板と共に固定されていた。
炊飯器の源プラグなど、最初からフェイクだったのだ。
コンセントからされているように見せかけ、実際には内蔵されたタイマー回が、あらかじめ指定されたに内部ヒーターを作させる。
加奈子がをれる、あの隠し部から隔でプログラミングしていた仕掛けだった。
「筍ご飯も、赤飯も……」
健は震える唇を噛み締めた。
「全部、おがその部で作って……タイマーで……」
「ええ」
加奈子は淡々と言った。
「隠し部には、さなIHヒーターももあったわ。あなたたちが熟している午、私は毎、あの隙から炊飯器へ料理を移していたの。蓮の通学カバンにノートを入れたも、あなたがパントリーに気づくよ」
「化け物め……!」
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健がを叩いて吠えた。
「自分ので、よくそんな気の悪い真似ができたな! 俺たちを狂わせるために、そこまでやったのか!」
加奈子は首を横に振った。
「狂わせるためじゃないわ。いらせるためよ」
加奈子はに膝をつき、健の目のさまで顔をづけた。
「お義父様がたくなっていく、あなたたちがどんな顔でを潰していたか。、私が毎朝どんな気持ちであなたたちに朝を運んでいたか」
加奈子の指先が、ガラス容器の表面をなぞった。
「あなたたちは、が苦しんでいる記憶を全部忘れて、当たりの顔をしてきていけるたちよ。だから、毎朝突きつけてあげる必があったの」
「連します」
配の刑事がく告げ、健の腕を力く引き起こした。
ガチャリ、と錠の噛みう音が、狭い台所に響いた。
志保はすでに自力でつこともできず、の警察官に脇を抱えられながら、引きずられるようにして玄関へ運ばれていく。
「蓮! 蓮、助けて! おばあちゃんを助けてぇ!」
志保の濁った鳴が廊に反響し、やがて玄関ドアが閉まる音と共に、の気のへざかっていった。
ヶ。
に入り、のには淡い緑の芽が芽吹き始めていた。
郊の私鉄駅のホーム。
差しは柔らかかったが、にはまだ微かにの名残のようなたさが混じっていた。
ベンチに、蓮がで座っていた。
私のパーカーにジーンズ。
元には、学カバンと、しきめのスポーツバッグが置かれている。