"27年目の再会" 第1話
直が定を迎えた、妻の美子は「お疲れさま」と言っただけだった。
特別な料理もなかった。
豪華な祝いの席もなかった。
けれど直は、それで分だとっていた。
以、緒に暮らしてきた夫婦なら、派な言葉など必ない。
そうっていた。
「かったな」
夜、リビングで昔の写真を眺めながら、直は呟いた。
宅会社をさな事務所から始めた頃。
まだ社員も数しかいなかった。
朝から晩まで働いた。
休もに仕事を持ち帰った。
その、美子は何も言わずを守ってくれた。
娘の学事。
親の介護。
計の管理。
すべて美子がやってくれた。
「あなたは仕事だけしていればいいから」
昔、美子はよくそう言っていた。
直は、その言葉を今でも覚えている。
そして同に、謝していた。
自分が会社をきくできたのは、美子のおかげだとっていた。
翌週。
直は会社から持ち帰った荷物を理しながら、のの片付けも始めた。
定をに、なものを減らそうとったのだ。
そのだった。
押し入れの奥に、さな箱があることに気付いた。
古い箱だった。
表面にはく傷がついている。
「これ、何だ?」
直が聞くと、美子が振り返った。
瞬だけ。
本当に瞬だけ。
美子の表が変わった。
「……昔のものよ」
「昔の?」
「もう捨ててもいいものだから」
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そう言って、美子は箱へづいた。
だが直は、なぜかをさなかった。
緒に暮らしている。
だから分かった。
美子は何かを隠そうとしている。
「見てもいいだろ」
「直さん」
珍しく、美子の声がしかった。
その瞬。
直のにさな違がまれた。
妻が自分に何かを見られたくないとったことなど、ほとんどなかったからだ。
「そんなに事なものなのか?」
美子は答えなかった。
数秒。
さく息を吐いた。
「……好きにして」
その言葉を聞いて、直は箱をけた。
には古い帳。
数枚の写真。
そして通の封筒が入っていた。
封筒には、見覚えのある文字が並んでいた。
美子様。
京の版社名。
そして、
「採用内定通」
という文字。
直のが止まった。
「……何だ、これ」
美子は黙っていた。
直は封筒を裏返した。
そこには付があった。
。
さらに、そのに。
自分の字が残っていた。
「617 本と相談の、辞退連絡済み」
直は何度もその文字を見た。
自分の字だった。
違いない。
だが、記憶がなかった。
「俺が……いたのか?」
美子は線を落とした。
「そうね」
「どういうだ?」
「そのままのよ」
「俺が、おの内定を断ったってことか?」
部が静かになった。
テレビの音だけがく聞こえた。
美子はしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
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「あなたは、あのそう決めたの」
直は笑おうとした。
何かの勘違いだとった。
昔のことだ。
。
まだ娘もさかった。
庭のために話しったことはある。
でも。
「俺たちは相談しただろ」
直は言った。
「おも納得したはずだ」
美子は彼を見た。
その目はっていなかった。
だからこそ、直は怖かった。
「あなたは、そうっていたのね」
その言が、胸に残った。
その夜。
直は眠れなかった。
隣で美子はいつも通り眠っていた。
まるで何も起きていないように。
しかし直ののでは、の記憶が何度も繰り返されていた。
当、自分は会社をちげたばかりだった。
毎余裕がなかった。
美子は版社で働きたいと言っていた。
だが、娘はまだ幼かった。
直は覚えている。
「今は庭を優先した方がいい」
そう言った。
「俺が頑張るから」
そう言った。
美子は泣かなかった。
りもしなかった。
ただ、
「分かった」
と言った。
だから直はった。
彼女も納得したのだと。
翌朝。
美子はいつも通り朝を作った。
噌汁。
焼いた魚。
ご飯。
何も変わらない。
その普通さが、逆に苦しかった。
「美子」
「何?」
「どうして今まで言わなかった」
箸を置く音がした。
「何を?」
「この内定のことだ」
美子はし考えてから答えた。
「言っても、何か変わった?」
直は返事ができなかった。
「なら……」
「?」
美子がさく笑った。
「あなた、まだそう言うのね」
「何がだ」
「全部、昔の話だとっているところ」
直は黙った。