"水曜日の部屋" 第3話
「いいえ」
千は静かに首を振った。
「私はりません」
「嘘」
「本当です」
千の声には迷いがなかった。
「梨さんが今どこにいるのか、私もりません」
「だったら、なぜ……」
美奈の線が揺れる。
「なぜあの部を守っているんですか」
千はしばらく黙っていた。
そして、さな声で言った。
「約束したからです」
「誰と」
「梨さんと」
美奈の胸がきく鳴った。
「いつですか」
「です」
「娘が消える?」
千は頷いた。
「最に会ったに」
最。
その言葉に、美奈は反応した。
「最……?」
千は苦しそうに目を閉じた。
「梨さんは、あなたに言えなかったことがあります」
美奈の指先がたくなる。
「何を」
「自分がいなくなったも、部を片付けないでほしいと言われました」
「……」
「でも、ずっとそのままにする必はないとも言われました」
美奈はが分からなかった。
「どういうことですか」
千は内を見回した。
とりどりの。
季節ごとに変わるり。
そして、美奈自が守ってきたさな世界。
「梨さんは言っていました」
千がゆっくり話し始める。
「母親は、自分が帰ってきたのために部を残すとう」
「……」
「でも、本当は違う」
「何が違うんですか」
千は美奈を見た。
「お母さんが待ち続けるために、部を残すんです」
その瞬。
美奈の胸の奥で何かが崩れた。
りだったのか。
しみだったのか。
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自分でも分からなかった。
「あなたに……」
美奈は震える声で言った。
「あなたに、娘の何が分かるんですか」
千はその言葉を受け止めた。
反論しなかった。
ただ静かに答えた。
「分かりません」
「……」
「だから毎週曜にっています」
「?」
「忘れないためです」
千は続けた。
「梨さんが、どんなだったのか」
「……」
「そして」
しを置いて。
「私自が、あのの選択を忘れないためです」
美奈はその言葉に引っかかった。
「あのの選択?」
千の顔から初めてが消えた。
「はい」
「あなたは……何をしたんですか」
千は答えなかった。
その代わり、バッグから枚の古い写真を取りした。
写真には、の梨が写っていた。
笑っていた。
美奈がらない笑顔だった。
隣に千がいた。
そして、そののろには――
見覚えのない所。
見覚えのない男性。
美奈は写真を見つめた。
「このは……誰ですか」
千はさく言った。
「梨さんが、最に助けようとしたです」
「最に?」
「そして、そのを助けたことが……」
千は目を伏せた。
「梨さんが消える理由になりました」
美奈のから、写真が落ちそうになった。
。
自分はずっと、
娘が何かに巻き込まれたとっていた。
でも違った。
娘は何かから逃げたのではない。
何かを残していった。
その残したものを、自分は何もらなかった。
その夜。
美奈は久しぶりに梨の部に入った。
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机の。
本棚。
ベッド。
昨までとは違って見えた。
ここには娘の物がある。
でも、娘のそのものではない。
美奈は机の引きしをけた。
には何もなかった。
その。
番奥に、さな傷があることに気づいた。
引きしの底。
何かを隠していたような跡。
美奈は指を伸ばした。
そして、初めてった。
自分は、この部を守っていた。
でも。
度も本当に探してはいなかったのかもしれない。
森川美奈は、その夜もできなかった。
ベッドに横になって目を閉じても、のには同じ言葉が何度も浮かんだ。
――梨さんが消える理由になりました。
野寺千の声。
あの静かな声が、の奥に残ってれなかった。
。
美奈は娘を探していた。
警察に相談した。
昔の友に連絡した。
会社にも問いわせた。
けれど、どこにも梨はいなかった。
だから美奈はっていた。
娘は何かに巻き込まれたのだと。
誰かに傷つけられたのだと。
帰りたくても帰れないのだと。
そう信じることで、自分を保っていた。
でも。
もし違っていたら。
もし梨が、自分のでいなくなったのなら。
そして、その理由を誰かがっているのなら。
母親である自分だけがらなかったことになる。
その事実が、美奈には耐えられなかった。
翌朝。
の。
美奈は古い段ボール箱を倉庫からした。
には梨の学代の物が入っていた。
卒業アルバム。
昔の。
旅先で買ったさな置物。