"母のいない写真" 第3話
あの、だというのに季節れのえ込みで、桜の残骸が濡れたアスファルトにへばりついていた。母・子は朝から落ち着かない様子で台所にち、祝いの赤飯を炊き、直の好物だったエビフライを揚げていた。
式の、族で所の写真館にき、型通りの記撮をした。しかし、アルバムので切り抜かれていたのはその写真ではなく、式を終えてに帰ってきたの、暗い居で撮されたスナップ写真の方だった。
直は目をつむり、あの、あの居で何があったのかを必にい起こそうとした。
そうだ。あの、父はひどく嫌だったのだ。
職での事異か何かのトラブルがあったらしく、帰宅した父は苛ちを隠そうともしなかった。せっかく母が朝から準備した祝いの料理にももをつけず、コップに注いだビールを黙々とあおっていた。
「こんな油っこいもの、昼からえるか。祝うようなめでたいことなんか、このには何つないんだよ」
父が吐き捨てるように言った言葉が、直の脳裏に鮮に蘇ってきた。母は「申し訳ありません」とさくをげ、すぐに刺かさっぱりしたえ物を作ろうとちがった。
だが、歳だった直もまた、母に対して分に残酷だった。
当の直は、期の入りに差し掛かり、ぶって族と距を置きたがっていた。
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母が買い揃えてくれたしきめの制の肩幅が気に入らず、「格好悪い」「センスがない」「友達に見られたら笑われる」と母をなじったのだ。
「お母さんなんて、学のことも何もわかってないくせに余計なことしないでよ。居るだけでウザいんだよ」
直が投げつけたその言葉に、母はることもなく、鳴をげることもなかった。ただ、寂しそうな笑みを浮かべ、「ごめんなさいね、直。お母さん、気が利かなくて」と静かにをげただけだった。
そのの夕の席で、父と直はテレビの野球継にになり、母のことなど最初からそこにしないかのように振るった。母が運んできた温かいお茶の湯みを、父は謝の言葉つなく元に引き寄せ、直は母が「学はどうだった?」と話しかけてきた問いかけを「うるさいな」と蹴した。
夜、直がトイレにったとき、廊のから台所が見えた。
母は照を消した暗がりので、ポツンと、パイプ子に腰かけていた。そして、父と直が残しためきったエビフライを、醤油もつけずに、ただ械にへ運んでいた。その背はさく丸まり、まるで世界から見捨てられた遺物のようだった。
直は胸の奥がな罪悪で締め付けられるのをじた。
あの、あの居で、佐伯文雄と佐伯直というの男は、違いなく子というのの尊厳を「無」
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という刃物で切り刻んでいたのだ。悪があったわけではない。それが佐伯における「常」であり、当たりの族の景だったからだ。
母は事という無償の労働を完璧にこなし、父と子の嫌を受け止め、のを滞りなく回転させるための「都のいい背景」に過ぎなかった。
写真の裏にかれた文字が、直のので何度も気に響き渡る。
『本、私がこのから消えたつ目の理由。』
母があの写真から自分の形を削り取ったのは、まさにあのの夜だったのだ。自分というが、このにおいて空気以の透なであることを完全に悟った、最初の夜。
父の斎は、の煙のヤニと古いの匂いが充満していた。
部の央に置かれた黒檀の机は、父が役所で助役を務めていた頃に購入した級品だった。直は息を殺し、引きしをひとつずつけていった。
番の引きしには、文具や古い鏡。段目には、父の帳や実の権利証、定期預の証。そして、最段のくい引きしの奥から、直は冊の古いノートと、黄ばんだ茶封筒の束を見つけた。
ノートは、母・子がつけていた計簿だった。
昭50代のページをくと、細かな文字で「気代」「費」「直・学用品」といった項目が几帳面に並んでいる。