みかん小説
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"母のいない写真" 第6話

という父の作った物語を疑いもせずに受け入れていたのだ。

加害者は、父ではなかった。 沈黙した所の々も、そして何より、母の苦しみに気づこうともしなかった自分自も、母を「透」へと追いやった共犯者だったのだ。

はおばさんにげ、実へ戻ると、すぐにコートを羽織った。 目はひとつしかなかった。あの封筒に押されていた消印の——Nだ。

単線のローカルに揺られ、分。 窓の景は、から次第に古いや田畑が混ざりう、斜陽の方都の景へと変わっていった。

N駅でりた直は、駅からタクシーに乗り、図と消印の報を頼りに、かつてさな繊維が集まっていた旧へと向かった。

「あの辺りはもう、ほとんどのが潰れちまいましたよ」

運転は世話交じりに言った。

くらいなら、まだ織りのさな裁縫所がいくつか残ってましたけどね。今はもう、老ホームかアパートになってますわ」

タクシーがまったのは、細いの奥にある、トタン根の平ち並ぶ区画だった。 そこには「佐藤紡績」とかれた、掠れた製の板が寂しげに掲げられていた。というよりは、きめの作業といった佇まいだ。

建物は古びていたが、敷内は掃除がき届き、軒にはいくつかの鉢植えが然と並べられていた。

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その鉢植えの配置や入れの仕方に、直は既を覚えた。実の庭で母が育てていた鉢植えと、全く同じ空気を纏っていたのだ。

「すみません……どなたかいらっしゃいますか」

が引き戸をけると、ガラガラと乾いた音が響いた。 奥からてきたのは、髪を綺麗にお団子にまとめた、背筋の伸びた老女性だった。齢は歳を超えているだろうか。作業着のに清潔なエプロンをにつけていた。

「はい、どちら様でしょう? うちはもう、個な注文しか受けておりませんけれど……」

老女性は、直の顔をじっと見つめた。 そして、数秒の沈黙の、驚いたように目を見いた。

「あなた……もしかして、子さんの……直さんですか?」

臓ががった。

「……母をごなのですか?」

「ごも何も……」 老女性は優しく、しかしどこか寂しげな笑みを浮かべた。

「ここで、私と緒に糸を紡いで、を縫っていたのよ。子さんは……ううん、『佐藤子』さんは、私の切な相棒だったわ」

の奥にあるさな応接スペースで、直された温かいほうじ茶を両で包み込んでいた。

老女性の名は、島田キヨ(83)。この紡績主だった。

子さんがここに来たのは、平成2の7の終わりだったわ」 島田さんは昔を懐かしむように、くの窓を見つめながら語り始めた。

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きなボストンバッグつだけ持ってね。いの紹介で『み込みで働かせてほしい』ってやってきたの。元には、貯めたという古びた札束と、裁縫の具箱だけがあったわ」

「母は……ここでどんな仕事をしていたんですか?」

「最初は働きよ。でもね、子さんの針仕事は完璧だったの。丁寧で、目が揃っていて、何よりに対するがあった。彼女が仕てた物は、くから買いに来るファンができるくらい評判だったのよ」

島田さんは微笑み、横の棚から冊のアルバムを取りした。 直が実で見つけた、あの呪いのような黒いアルバムとは全く違う、るい布で作られた作りのアルバムだった。

ページをくと、そこには直らない「母」の姿があった。

素朴な作業着を着て、織りに向かって微笑む女性。 の仲たちと旅き、旅先で照れくさそうにアイスクリームをべている女性。 どの写真の母も、化粧気はなく、目尻にはシワが刻まれていたが、その瞳はきと輝いていた。

の写真に写っていた、あの「消え入りそうな、背景と同化していた母」の面はどこにもなかった。

子さんはね、自分のことを『佐伯』とは度も名乗らなかったわ」 島田さんは静かな声で言った。

「『私は佐藤子です。自分ので稼いだおで、自分のべる米を買ってきている、ただの女です』って、嬉しそうに言っていたわ。

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