"母のいない写真" 第10話
の造建築だけは、当の面を濃く残していた。
直はフロントで庭園の見学を乞い、静かに奥の庭へとを向けた。打ちが撒かれたを渡り、赤い太鼓を越えると、目のに広い池ときな葉のが現れた。の、歳だった直は、この池のほとりで父と母と緒にっていたのだ。
あの、自分 meは何を考えていただろうか。学の休みの帰省、父がつまらない仕事の愚痴を溢し、母が控えめに「お呂、気持ちよかった?」と問いかけてきたことを覚えている。当の直は「普通だよ」と素っ気なく返し、すぐに携帯ゲームやサークルの友のことへと識を向けていた。母の顔など、ろくに見もしなかった。
母がそのとき、ボストンバッグの底にカッターナイフを忍ばせ、すでに自分のや私物を処分し尽くし、翌の逃を完璧に配し終えていたことなど、ほどもらずに。
直はポケットから、実のアルバムから取りしてきたあの枚の写真と、桐の箱から取りした「枚目の母の破片」を取りした。
写真の央には、渋面を作った父と、気まずそうに笑う歳の自分が写っている。そして端には、精密に切り取られたい「の穴」があいている。直は写真の縁を持ち、目のの葉のと池の景にねわせた。
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のを超えて、写真の背景と実際の景がぴったりと致する。
直は、息を殺しながら、自分の親指と差し指でつまんだ母の破片を、そのい穴へとそっと滑り込ませた。
カチリ、とさな音が脳内で聞こえたような気がした。
に剃刀の刃先で切りされたの繊維が、寸分の狂いもなく噛みい、い穴は塞がれた。そこに現れたのは、緑の庭園を背景に、つつましく両をで揃えて微笑む「佐伯子」の姿だった。見た目には、完璧で、何のりもない幸福な族写真の完成だった。
しかし、その瞬、直の胸を激しい拒絶が突きげた。
「……違う」
直は呟き、自分の指先が微かに震えていることに気づいた。
写真を元通りに修復すること。母の破片をこのアルバムの穴に嵌め直すこと。それは、直自の罪悪をらげるための、勝でエゴイスティックな「自己満」に過ぎないのではないか。こののフレームのに母を押し戻すことは、彼女がかけて血を吐くようないで脱した「佐伯の透な妻」という檻のに、再び母を閉じ込める為そのものではないか。
母は、写真を完成させるためにこの破片を残したのではない。自分が確かにし、そして自分の志でこの枠組みを破壊したのだという宣告として、この破片を切り取ったのだ。
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直は、そっと指先をかし、はめ込んだばかりの母の破片を穴から再び取りした。
写真の端には、再びぽっかりとい穴がいた。だが、その穴から見えるのは、気な空などではなかった。の今、美しく澄み渡る箱根のの空と、青々とした々のきてある景だった。
「母さん……僕はもう、あなたをここには戻さない」
直は破片を切に桐の箱に納め、しっかりと胸に抱きしめた。写真の穴は空いたままでいい。それこそが、母が自分のを自分のに取り戻したという、何より尊い勝利の証なのだから。
箱根から戻った翌朝、佐伯直は解体作業を翌に控えた実のにっていた。
畳のにう斜のに、あの冊の黒いベルベットのアルバムが静かに並べられている。線の匂いはすっかり消えり、かわりに全体を覆う乾いたと古埃の匂いが充満していた。柱や鴨居のあちこちに、解体業者が付けた赤いテープが寒々しく貼られている。
昭から平成、そして令へ。父・佐伯文雄という男が支配し、妻のを透な空気として摩滅させ、息子を歪んだ全帯のに囲い込んできたこの塞は、の朝にはの爪によってと瓦礫のへと姿を変える。
直は静かに畳のに腰をろし、番古い昭57のアルバムをいた。
くり抜かれた「の穴」。 、この穴を初めて見つけたとき、直はそこに気な呪いと、母の酷な復讐の痕跡を見て取った。