"亡き義母の口座を洗う女" 第9話
いよいよ、修羅の幕がく。
翌の曜。私は何事もなかったかのように買い物へき、雅志の好物であるハンバーグと刺を準備した。
夜8過ぎ。玄関のく音がして、雅志が帰ってきた。
「ただいまー。うーん、いい匂いだな。今は何だ?」
「お疲れ様。ハンバーグよ。先にシャワー浴びてきたら?」
「おう、そうするよ」
嫌良さそうに浴へ向かう雅志の背を見送りながら、私は静かにテーブルのセッティングをした。
料理を並べ、その央に冊のクリアファイルをいて置く。
は、庫から複写した『名義および体特徴譲渡承諾』、USBメモリのデータログの印刷物、そして昨夜コンビニで回収した義母のエンジのカーディガンだ。
数分、呂がりの雅志が首にタオルをかけたままリビングに入ってきた。
「あー、サッパリした。……ん? なんだこれ」
雅志の線が、テーブルの央に落ちた。
ファイルに印刷された『株式会社再』の文字、そして自分の自サインと義母の歪んだ指印が目に入った瞬、雅志のきが完全に止まった。
「……何だ、これ」
雅志の声が、く張る。
「何だとう? 雅志」
私は向かいの席に静かに腰掛け、脚を組んだ。
「3にんだお義母さんの『名義』を売った契約よ。それと、お義母さんがデイサービスから帰ってきたに、あなたが暴言を吐いて声を録音していたのデータログ」
広告
雅志の顔から、急速に血の気が引いていく。タオルを握りしめる指が真っに張っていた。
「お……勝に俺の庫をけたのか!?」
「けたわよ。暗証番号がお義母さんの命だなんて、本当に悪趣ね。自分の母親がんだを、犯罪の証拠を隠す番号にするなんて」
「ふざけるな! の部を勝に漁りやがって!」
雅志はテーブルを激しく叩き、ちがった。器がガチャリと気な音をてて揺れる。
「言い訳はないの? 『ただの副業だ』とか『私の覚だ』とか、また私を精神病扱いするの?」
「黙れ!」
雅志の目が血り、狂気を帯び始めた。
「おに何が分かる! 俺は借で首が回らなかったんだよ! あの、母さんの名義を売らなきゃ、俺たちは破産してに迷ってたんだ!」
「だからって、んだお義母さんを『ゾンビ』にして組織に売りばしたの!? 介護でボロボロになってた私を騙して!?」
「介護だあ!?」
雅志はで笑い、酷な笑みを浮かべた。
「おが勝に介護ごっこをしてただろ! 俺が母さんのデータを集めてにしてやったから、おも活できてたんだろうが! 謝しろよ!」
「……謝?」
あまりの言いぐさに、私のので何かがプチりと音をてて切れた。
「ええ、そうね。あなたが者ビジネスで稼いだ々数万円の『与』……でもね、雅志。昨夜、私、あの便利で『坂本子役』の女に会ったわよ」
広告
雅志の表が凍りついた。
「女から話を聞いたわ。あの組織には、警察の捜査がいつ入ってもおかしくない状況だって。私がこの証拠を持って警察にけば、あなたは詐欺とマネーロンダリングの共犯で発で逮捕よ」
「……お、警察にく気か?」
雅志のい声が響く。ゆっくりとテーブルを回り込み、私の方へとづいてきた。
「警察にったらどうなるか、分かってるのか? 俺が捕まったら、おもただじゃ済まないぞ。おが使ってた活費も、全部その『のお』からてたんだからな! おだって共犯だ!」
雅志が私の腕を打するように掴みげた。い力で首が握りつぶされそうになる。
「余計な真似をするな、由里。黙って俺に従え。これ以首を突っ込むなら、本当におを精神病院に叩き込んでやるからな……!」
脅しつける雅志の顔が、至距に迫る。
だが、私は怯まなかった。まっすぐに雅志の目を見返し、たく言い放った。
「好きにしなさい。でも、もう遅いわよ」
「……なに?」
「このファイルとUSBのバックアップ……の朝番で、弁護士と警察に提するはずをえてあるから」
雅志の目がきく見かれた。首を握る力が、呆然と緩んでいく。
修羅の卓で、私は絶望に引きつる夫の顔を見つめながら、初めてからの笑みを浮かべ
「……なに? 弁護士……警察……!?」
首を固直させていた雅志のが、呆然とれた。その顔は蒼を通り越し、気へと変していく。