"爪の綺麗な中卒娘、奇跡を起こす" 第2話
稼働のえた械にそっと触れ、コンクリートのの微かな傾きを確かめ、壁にしみついた代分の油の匂いを肺の奥までく吸い込む。祖父が最初に買ったいの旋盤はもうとっくになかった。だが、その械をし、妥協を許さなかった精神だけは、このの骨組みに確実に染みついていると、誠郎は固く信じていた。――このを、自分の代で潰すわけにはいかない。その朝も、ので何度もそう呟いていた。
桜のびらがたいに巻きげられ、あてどなく空をって消えていくの午。 の々しい正のに、の女性がぽつんとち尽くしていた。名は島凜、歳。何度も何度もき直されてクタクタになった履歴を、え切った両でぎっとく握りしめている。名古内のコンビニのレジ、夜の堂での皿洗い、雑居ビルの清掃業務。きるために、働ける所ならどんな過酷な現でも臭く働いてきた。だが、どんなに必に求に応募し、履歴を差ししても、返ってくる言葉はいつも決まってたかった。 「ウチは卒以が採用の絶対条件なんでね」 その壁にぶつかり続け、それでも彼女が最にたどり着いたのが、ここ川精だった。もうここでダメなら、彼女のに次の選択肢は残されていなかった。
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の現主任である田所が、きなフォークリフトのエンジンを乱暴に切ると、ガタガタと音をてながら凜の方へと歩み寄ってきた。属加の現で汗を流し、叩きげでこのの現を切り盛りしてきた粋の職だ。 「おい、何か用かここは?」 「あの……ここで、働かせていただけませんか?」 田所のがぴたりと止まった。その声を聞きつけて、ので作業していた男たちのが止まり、周囲の空気が気にざわついた。 「お、ここが何のか分かってきてんのか? 自部品をミリ単位の精度で作る製造現だぞ。ウチの求サイトを本当に見たのか?」 「はい……業をていないとダメでしょうか。で働いた経験は……ありませんが」 「おいおい、卒だってのか? おまけに勤務の経験ゼロかよ」
田所は、凜ののてっぺんから履き古したスニーカーのつま先まで、値踏みするようにじろじろと見ろした。古びたリュックサックに、あせたスニーカー。どうひっくり返っても、この殺伐とした属加の現に馴染む素など微もなかった。 「ふっ、やかしならよそへけ。帰った帰った」 田所がで追い払うようにシっシとジェスチャーをしたそのだった。 「いいだろう」
く、しかし妙に響く声が、田所の追い払う言葉を遮った。
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いつのにか、の窓から様子を伺っていたのであろう誠郎が、事務所の脇からスッと姿を現していた。作業着のまま、無言のまま歩いてきたのだ。 社が割って入ったことに田所が驚きを隠せない、誠郎はすぐに言葉を発しなかった。ただ、凜の「」をじっと凝していた。そこには、皿洗いや清掃の仕事でついた無数の細かい傷が刻まれ、関節のあたりが赤く痛々しく荒れていた。しかし、議なことに、そのは異様なほど清潔だった。爪はく、ミリ単位で丁寧に切り揃えられていた。何も、どんなに活が苦しくても、自分の仕事に誇りと誠実さを持ち続けてきたのだと、職を見てきた誠郎には目で理解できた。
「その履歴、見せなさい」 促されて、凜は震える両で履歴を差しした。誠郎はそこにかれた文字に度だけ静かに目をとおした。 「松永、この子の採用続きをしてやれ。から来い」 田所が「しゃ、社正気ですか!」と裏返った声をげた。しかし、誠郎はすでに凜に履歴を突き返し、背を向けて事務所の奥へと歩き始めていた。のコンクリート塀の脇には、さな壇があった。誰が世話をしているのか、栄養のりなそうなから黄い菜のがひっそりと咲き誇っている。凜は吸い寄せられるように、そのをほんの瞬だけ見つめた。
事務所の窓ガラス越しにを眺めていた誠郎の背に、堪えかねた田所がすごい勢いでび込んできた。