"爪の綺麗な中卒娘、奇跡を起こす" 第9話
であることなど瞬で理解できた。いや、本物という言葉ですらぬるいほどの、奇跡なまでの完成度だった。ページをめくる誠郎の指先が、わずかに震えていた。 百ページ目。それが最のページだった。誠郎はゆっくりと設計を閉じ、しばらくの、言葉を失ってそのに座り込んでいた。窓のの空は完全にるみを帯び、朝のまばゆい朝がのトタン根の隙から差し込み、設計のたいの隅を温かなで照らししていた。
「……社」 背で、さな物音がして凜が目を覚ました。机からゆっくりと顔をげ、疲労で真っ赤に充血した目で誠郎を見つめる。頬には、の端の跡がくっきりと残っていた。 誠郎は凜の顔を見つめ、何か言葉をかけようと喉をかしたが、あまりのに声がつもなかった。ただ、く、力く頷くことしかできなかった。凜はその誠郎の姿を見て、ほっとしたようにさく息をついた。窓のでは、朝の太陽がまた段とく昇り始めていた。
それからの午。 川精の古びた正のに、台のピカピカに磨きげられた黒い級セダンが静かに滑り込むようにしてした。運転席からりてきたのは、ビシッとしたオーダーメイドのスーツにを包んだ男だった。
広告
モーターズ調達部・黒田義、歳。 黒田はからりると、腕を組んで川精の敷内を徹な目でゆっくりと見回した。歴史をじさせる古びた鉄骨造りの観、あちこちに赤錆が浮きたシャッター、すっかりあせた板。経営状態の厳しさは目で隠しようもなかったが、その男の鋭い目は、このの持つ本質な空気を正確に嗅ぎ取っていた。
お迎えにた誠郎は、背筋を伸ばし、々とをげた。黒田はわずかに顎を引いて答える。 「川さん、本はわざわざご労いただき……いや、失礼、こちらがお邪魔したんでしたね。よろしくお願いします」 丁寧な物言いではあったが、そこには切のの温度が含まれていない、プロのビジネスパーソンの徹な響きがあった。
団はそのまま殺景な会議へと通され、黒田は座の子にどっしりと腰をろした。にした革製の鞄から分いファイルを取りし、ゆっくりとテーブルのに広げる。その向かい側には、誠郎、田所、松永、そして凜が緊張した面持ちで並んで座っていた。黒田の線が、に並びの端に座る凜の姿でピタリと止まった。 「……そちらのお若い方は、当社の従業員です」 誠郎がい言葉で簡潔に紹介した。黒田はわずかに眉をひそめ、すぐに線を類へと戻した。
広告
「では、さっそく今回のコンペ用設計を拝見しましょうか」
誠郎が差ししたのは、さ数センチにも及ぶ百ページの製本されたファイルだった。黒田は表の文字を瞥すると、音をてて最初のページをいた。 最初の数ページは、いつもの請け企業のレベルを確認するかのような、斜め読みの流し見だった。だが、ページほどんだあたりから、黒田の指のきがピタリと遅くなった。ページをめくるの音が、先ほどとはらかに変わっていた。 正確には、ページ目を過ぎたあたりから、黒田は完全にそのからけなくなっていた。顔をげることもせず、同じページを度、度と繰り返し読み込んでいる。隣に控えていた部の男性が審にって司の肩越しに図面を覗き込み、次の瞬、その部の顔も真っ青に変わった。
会議のには、の話し声は切なかった。ただ、壁にかけられた古びた計の秒針が、カチッ、カチッ、とたく響き渡る音だけが異様にきく聞こえていた。 沈黙が秒ほど続いた、黒田はようやくい作で設計をパタンと閉じ、静かにテーブルのへと置いた。 「……この設計、体どなたが描いたんですか?」 誠郎は迷うことなく、隣に座る凜をまっすぐに見た。その線を追うように、黒田の徹な目もゆっくりと凜のほうへと向けられた。
「……私です」 凜はさく、だが歩も引かない確な声で答えた。