"爪の綺麗な中卒娘、奇跡を起こす" 第11話
しかし、これほどまでに胸を打たれる美しい景は、彼ので度たりともなかった。
やがて、帰につくためへ乗り込もうとしていた黒田が、ふとを止め、くで見送りにっていた従業員たちのほうを振り返った。 「……島さん、よければ、が社に来ていただけませんか?」 その突然の引き抜きの言に、見送りに並んでいたの社員たちが驚愕のあまり言葉を失って息を呑んだ。 「うちの本社設計部なら、収百万円のベースからスタートしていただけます。あなた専用の個のポジションと、千規模のスタッフをかす権限を用します。あなたほどの卓越した才能は、さな町ではなく、もっときな環境でこそ最の力を発揮できるはずだ」
誠郎は切じず、そので腕を組んだまま黙っていた。田所も松永も、息を詰まらせて凜の返答を待った。 凜は、目のにつ企業の調達部の顔を、しばらくのじっと見つめていた。 収百万円。これまで自分のでは像すらしたこともないような、途方もないだった。そのおがあれば、母の入院費の配など度としなくてよくなる。もっと贅沢な治療を受けさせてやれるかもしれない。 それでも、凜はゆっくりと、しかしハッキリと首を横に振った。 「……お誘いいただき、ありがとうございます。
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でも、私はこの川精にいたいです」 「……その理由を聞かせてもらってもいいですか?」 凜は、しれた所で自分を見守っている誠郎のほうに目を向けた。 「卒で、まともな経歴もなくて、世からは何もできない底辺のだとわれていた私を……この社だけが、最初のそのから信じてくれました。私は、社のそばで、このの械の音を聞きながら、もっともっとここで働きたいんです」
誠郎は何か言葉を発そうとをきかけたが、喉の奥がくなりすぎて、声がどうしてもなかった。ただ、喉仏がさくするだけだった。田所はこらえきれずに顔を背け、頑丈な肩をかすかに震わせていた。 黒田はしばらくの、まっすぐな瞳で凜を見つめ続けていたが、やがて満したようにさく頷いた。 「……分かりました。気が変わったらいつでも私に連絡をください。席はいつでも空けておきます」 黒田は枚の名刺を凜にそっと渡し、そのまま級セダンの部座席に乗り込むと、は軽やかなエンジンの音を残してりっていった。
それからヶというが流れた。 川精の姿は、見違えるようにまれ変わっていた。煤けて黒ずんでいた壁はきれいに塗り直され、シャッターの赤錆は綺麗に削り落とされ、正の脇にあったさな壇には、あのよりもさらに鮮やかなしい々がききと植えられていた。
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のには、再び活気を取り戻した旋盤のよい回転音が途切れなく響き渡り、そこで働く従業員たちの顔には、かつての切羽詰まったは消え、確かな自信と余裕の笑顔が戻っていた。モーターズからの継続な追加発注が途切れることなくい込み、本ののメーカーからもしい設計の依頼が次々と殺到するようになっていた。 設計の真しいのドアには、しく作られた誇らしい名札がしっかりと掲げられていた。 『設計主任 島凜』。
そのの午、凜は設計の角で、しい材の採用面接をっていた。 彼女の向かい側のパイプ子にちょこんと座っているのは、の若い男性だった。齢は歳。あちこちがすり切れた物のスーツに、すり減った革靴。緊張のあまり、彼の両の指先は血の気が引いて真っになっていた。 「……志望のを、教えていただけますか」 凜の問いかけに、青は震える声で答えた。 「業を……卒業しました。でも、庭の事で学にはどうしても学できませんでした。それでも、物を作る仕事がの底から好きで……どうしても、ずっと設計の仕事に携わりたかったんです」
凜はその青の目をじっと見つめた。それは、かつてヶの自分が誠郎に向けたのと同じ、どんなに逆境に追い詰められても絶対に諦めないの目だった。