"左足だけの靴箱" 第4話
あの、あの現で何が起きたのか。
夫は吉岡輝のに、どう関わっていたのか。
私は端末の画面を閉じ、そっと呼吸をした。胸の奥で、の平穏な結婚活が、音をてて崩れ落ちていくのが分かった。
そのの夜、夫は夜過ぎになっても帰ってこなかった。
自に閉じこもっていた夫は、私が仕事にかけた朝の隙を見計らってを抜けし、そのまま会社にもかずに逃しているようだった。何度スマートフォンに話をかけても、械な留守番話のサービスに繋がるだけだった。
私は、静まり返ったリビングで、あの12の靴と向きっていた。
暗ので見つめていると、靴たちがまるでき物のように蠢き、無言で何かを訴えかけているようにえた。
なぜ「」なのか。
なぜ「の品」なのか。
吉岡静は、ただ夫からを受け取るだけでなく、なぜこんな奇怪な条件を突きつけたのか。
その、玄関のドアのから、かすかな音が聞こえた。
夫が帰ってきたのかとい、私はちがって玄関へと向かった。だが、ドアのスコープ(覗き穴)を覗き込むと、そこにっていたのは夫ではなかった。
黒いスーツを着た、見覚えのない代半ばほどの男だった。痩せた顔に鋭い目つき、えられた分けの髪。男はがのドアではなく、隣の「202号」
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のドアのにち、持っていた鍵で解錠しようとしていた。
遺品理は今で終わったはずだ。業者はすでにちっている。
私はそっとドアを数センチだけけ、チェーンをかけたまま隙から声をかけた。
「……どなたですか?」
男はびくりと肩を揺らし、ゆっくりとこちらを振り返った。その顔にはを隠そうともしない、ややかな笑みが浮かんでいた。
「ああ、お隣の奥さんですか。夜分にすみません。私はこのアパートの管理を任されている、産の渡辺という者です」
「管理会社の方……? 202号の理は、今終わったと聞いていますが」
「ええ、体の荷物は運びしてもらいました。ただ、故が個に預けていた『切な類』がまだ部に残っていると、ご遺族筋から連絡を受けましてね。私が代理で回収に来たんです」
男――渡辺と名乗った男の調は丁寧だったが、その目はまったく笑っていなかった。彼の線は、私の背、玄関の奥にある段ボール箱へと鋭く注がれていた。
「奥さん。理業者から、何か余計な箱を受け取りませんでしたか?」
渡辺の問いかけに、私の臓がねがった。
「余計な箱……ですか?」
「ええ。業者が違いで、お隣の荷物をそちらに渡してしまったかもしれないと報告を受けましてね。もし元にあるなら、今すぐ私に渡していただけませんか。
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故のプライバシーに関わる切なものですから」
渡辺はそう言いながら、歩こちらへとを踏みしてきた。チェーン越しとはいえ、威圧な圧迫が押し寄せてくる。
「違いではありません」
私はチェーンをしっかりと握り締め、渡辺の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「業者のは『故の遺言で、私宛てに届けるように指示されていた』と言っていました。箱のは、私が昔失くした私物です。あなたにお渡しする理由はありません」
渡辺の目から、笑みが完全に消えた。
「奥さん。無駄な首を突っ込むのはやめたほうがいい。あなたが抱え込もうとしているのは、ただの古い靴じゃない。あなたのご主の……直さんの『命取り』になる箱だ」
渡辺のから夫の名がびした瞬、すべての疑問が確信へと変わった。
この男もグルなのだ。
吉岡静、夫、そしてこの産の渡辺。はのあの事故の真相を共し、このアパートで狂った共関係を続けていたのだ。
「ご主はね、賢い選択をしたんですよ」
渡辺はく、楽しむような声で囁いた。
「、あのバカな真似をしでかした、警察に駆け込まずに俺たちの提案に乗った。だからこそ、彼は今まで捕まらずに、あなたと呑気に夫婦ごっこを続けられたんです。……だけどね、ばあさんがんだ今、契約は終わりだ」
「契約……?」
「そう。ご主が毎支払っていた『静寂の代』の支払い先が、これからは俺に変わるというだけの話ですよ。