"やさしい義母の消しゴム" 第1話
玄関のたたきを見つめながら、私はさく息を呑んだ。
昨までそこにあったはずの、お気に入りのベージュのパンプスがない。 代わりに置かれていたのは、爪先が丸く固い、くすんだ濃い茶のローヒールだった。デザインもどこか古くさく、お世辞にも私の好みとは言えないものだ。
「麻美ちゃん、おはよう。靴箱の理、勝にさせてもらったわね」
廊の奥から、パタパタと軽いスリッパの音をてて現れたのは、義母の真由美さんだった。
今で歳になる義母は、元学の国語教師だ。柄で細の体に、いつもパリッとしたアイロンのかかったエプロンをにつけている。髪混じりの髪はきっちりとろでまとめられ、その目元にはいつも、仏様のような穏やかな笑みが浮かんでいた。
「あの、お義母さん。私のあのパンプスは……?」 「ああ、あれね。かかとがしすり減っていたでしょう? 若い子が履くような派なだし、今の麻美ちゃんのにもわないとって、私が処分しておいたわ。代わりにこれ履いてね。丈夫で持ちするから」
真由美さんは柔らかい声でそう言い、私の返事を待つこともなく、にした固く絞った雑巾で駄箱の棚を拭き始めた。
処分した――。 あのパンプスは、私が独代に自分の料で買った、切に入れしていた靴だった。
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すり減っていたと言っても、先週ヒールを修理にしたばかりだ。
「……ありがとうございます」
私は静かにをげた。ここで反論してはいけない。それをすれば、私は「せっかくの親切を無にするがままな嫁」になる。
夫の哲也と結婚して半。 義母がこの世田のマンションに通い始めてから、ちょうど半が経っていた。
◇
「麻美ちゃんは卒で、ずっとアルバイトばかりだったでしょう? 世体もあるし、事のやり方もちゃんとについていないとうの。哲也は仕事が忙しい子だから、私がちゃんとサポートしてあげないとね」
結婚当初、義母は哲也のでそう微笑んだ。 哲也は「母さんは本当に優しいな。麻美、謝しろよ」と目を細め、義母に鍵を渡した。
それ以来、義母は毎朝にがにやってくる。 掃除をし、洗濯をし、夕のごしらえをして、夕方に帰っていく。
所でも評判の「聖母のようなお義母さん」だった。 マンションの敷内ですれ違うたちは、私を見ると誰もが親しげに、そしてどこかれむような線を向けてくる。
『麻美さん、いいお義母さんでよかったわねえ』 『真由美さん、あなたが緒定で働けないから、毎配して通ってるって言ってたわよ。事にしなきゃダメよ』
らぬに、私は「社会適応能力がなく、義母に寄してきているれな嫁」
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というレッテルを貼られていた。
義母の法は、あまりにも鮮やかだった。
のから、私のがしずつ消えていく。
私が好きで使っていたラベンダーの柔剤は、義母が持ち込んだ無料の業務用洗剤に変わった。 私がお気に入りの雑貨で買ったピンクのマグカップは、「欠けやすいから」という理由で、義母が実から持ってきた気ないの湯呑みに置き換わった。 クローゼットのの私のは、義母が「洗濯のついでに理した」と言って、奥のほうへ押しやられ、には義母がどこかの量販で買ってきた、なチュニックばかりが並ぶようになった。
私の、私の靴、私の好み、私の活習慣。 このから、私を構成するあらゆる“私物”が、ひとつ、またひとつと静かに消しゴムで消されるように消えていく。
そして今朝、靴が消えた。
「麻美ちゃん、お昼は蔵庫にうどんを入れておいたからね。あんまりにると疲れちゃうでしょう? でおとなしくしてなさい」
義母は私の肩を優しく叩くと、自分の鞄を抱えて買い物へとかけてった。
静まり返ったリビングで、私は、ぽつんとち尽くす。 ダイニングテーブルのには、義母がいた「今のやるべき事リスト」が几帳面な文字で置かれていた。
◇
「ただいまー。うわ、今もいい匂い。
やっぱり母さんの作る筑煮は最だな」
夜。仕事から帰ってきた哲也は、スーツを脱ぎ捨てながらダイニングの子にく腰掛けた。