"四十二歳の妊婦を捨てた機長と二十年後の息子" 第7話
「結ちゃん」
結は私を見て、軽く微笑んだ。
「あ、藤崎さん。何ですか?」
私は彼女の向かいの席に座り、単刀直入に言った。
「単刀直入に言うね。あなた、翔と付きってるでしょ?」
結はストローでアイスコーヒーをかき混ぜながら、あっさりと認めた。
「え、えっと、まあそうですね」
彼女の態度には、罪悪の欠片もない。
「あなたが翔と結婚するために、私は捨てられたの?」
結は議そうに首を傾げた。
「捨てられた?それって私のせいなんですか?」
私はテーブルのにを置き、彼女を見据えた。
「翔は結婚していたのよ。私という妻がいるのに、それを分かっていて……」
結は私の言葉を遮り、酷な言葉を放った。
「だって、藤崎さんってもうおばさんじゃないですか?」
彼女は私をれむような目で見た。
「翔さんずっと私に愚痴言ってたんですよ。『美咲は女として終わってる』って」
あまりにも無邪気な声。
当然のように言い放たれた言葉に、私の臓がひどくグラつく。
私はテーブルので拳をく握りしめた。
「な……」
結は涼しい顔で言葉を続けた。
「私、ただ翔さんの気持ちに応えただけです。好きになったものは仕方ないですよね」
彼女の無邪気な笑顔に、私は言葉を失ってしまう。
この子は、の庭を壊したという罪悪を何もじていない。
こんな子のために、私とのいも、これからまれてくる子供も、翔は全てを捨てたというのか。
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私はく息を吐き、静かに言った。
「そう。じゃあ、あなたもいつか捨てられるかもねえ」
結は怪訝な顔をした。
私は彼女に忠告した。
「翔はそういうよ。いつかあなたも同じように、捨てられるが来るかもしれない」
結は自信満々に微笑んだ。
「そんなわけないです。翔さんは私をしてます」
私は何も言わずにちがった。
翔はもう私の夫ではないし、結もどうなろうとったことじゃない。
ただ、私にはこのお腹のにいる切な命がある。
私は涙をこぼしながらも、息子のためにくきる決をした。
私は空を見げ、に誓った。
「私は負けない。絶対に」
私は子供と共に、しいを歩む。
翔のいない、しい未来へ。
それから20。
私は62歳になった。
いが流れたが、私は今も変わらず空の世界に関わっている。
そして今は、私にとって特別な。
婚にまれた息子の蓮が、パイロットとしてたな歩を踏みす。
私は自宅でスーツの埃を払っていた。
「お母さん、準備できた?」
そう声をかけてきたのは、制にを包んだ蓮。
彼は今、派なパイロットとしてのを歩んでいる。
かつて翔に捨てられ、1で育てると誓ったが子が。
今では堂々と自分の翼を持ち、空へとびとうとしている。
私は息子の姿に目を細め、微笑んだ。
「きましょう」
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蓮のれ姿を見届けるため、私は空港へと向かった。
空港に到着し、広い施設内を歩いていると、見覚えのある顔が界に入った。
私はわずを止めた。
「え、翔……」
あれほど見たくないとっていた顔だったが、議とは静かだった。
彼は68歳になり、現役のパイロットを引退したは、国内線の訓練教官として働いているらしい。
久しぶりに目にしたその姿は20とは違い、らかに老いていた。
背筋はどこか丸まり、顔にはいシワが刻まれている。
しかし、あの頃と変わらないものがあった。
それは、自分を特別なだとっているかのような、尊な態度。
私に気づくなり、翔は嘲るように笑い、たい声を放った。
「おお、久しぶりだな。貧乏が空港で何してるんだ?」
蔑みのこもった言葉。
でも私はもう驚かなかった。
彼は変わらない。いや、変わることのできない男なのだ。
私はただ静かに微笑み、穏やかな声で答えた。
「私はただの付き添いよ。今の主役は息子だから」
翔は眉をひそめた。
「はあ?息子?」
翔はで笑い、興なさげに肩をすくめた。
しかしその余裕は次の瞬、瞬で崩れる。
空港のゲートから、堂々とした姿で現れたのは1の青。
パイロットの制を着た蓮。
胸元に誇らしげに輝く「藤崎」の名。
彼の姿を見た途端、翔の顔が気に変わった。
「え、藤崎蓮……?」
周囲の職員たちも、蓮の姿を見て次々と驚きの声を漏らした。