"「ただいま」と笑う夫を家族全員で無視した" 第10話
着信拒否をされているのか、源を切っているのか、切の連絡が取れなくなっていたのだ。
たちがテーブルを囲んで青ざめ、困惑の表で顔を見わせている。 リビングの片隅では、何もらない未優が、部の隅の古回収の袋から裏を引っ張りし、鉛を握りしめて楽しそうにお絵描きをしていた。
「パパー、あかー、あおー」 たどたどしい声で笑いながら、未優が枚のを両で掲げて見せてくれた。 そのの表面に印刷された、幾もの黒い枠線と太い見しの文字が、私の界にび込んできた瞬――。
私の呼吸が、完全に止した。
「……待って。未優、それ……どこから持ってきたの!?」
私は慌てて未優のさなからそのを取りげた。 クレヨンを取りげられた未優は、驚いたように今にも泣きしそうな顔で私を見げた。 「ご、ごめんね、未優……驚かせてごめんね。このは事なものだから、お絵描きしちゃダメなの。こっちの画用に描こうね……」
私は別のいを未優に渡し、取りげた枚の類を、震えるでテーブルのに広げた。 その類を覗き込んだ義母と晃が、同に息を呑み、絶句した。
「……な、何なのよ、これ……! 体どういうことなの……!?」
広げられた類の最部には、太いゴシック体でこう印刷されていた。 ――『婚届』。
そして、夫の欄には、違いようもない久史自の几帳面な跡で、氏名、、本籍が完璧に記入され、彼の個実印が鮮に捺印されていたのだ。
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妻の署名欄だけを空にした状態で、押し入れの古い雑誌のに隠されていたその類。
なぜ、こんなものががにあるのか。 なぜ、久史は族に嘘をね、をむしり取り、連絡を絶ったのか。 背筋を氷で撫でられたような、底れぬ悪の気配が、静まり返ったリビングをく包み込んでいったのだった。
それから、数ヶのが流れた。 季節は巡り、の肌寒いが吹き抜ける頃。 私たち族は、ある確固たる決と準備をえ、そのを迎えていた。
そのの夕方。 私の自宅のリビングには、義父と義母、そして晃が集まり、料理を囲んで穏やかなを過ごしていた。テーブルには、冒のあの筑煮や肉巻きが美しそうに並べられている。 まさに、夕を始めようとしていた、そのだった。
ガチャリ、と玄関のドアがき、あの男がぶりに姿を現したのだ。
「ただいま。ご主様のお帰りだぞ! 計、変だっただろう?」
久史はヘラヘラと笑いながら、まるで期張から帰ってきたかのような軽さでリビングへと入ってきた。 そして、テーブルを囲む顔ぶれを見るなり、わずかに眉をげた。 「なんだ、晃と父さんたちも来てたのか。……おい、子。くビールせよ」
久史は何わぬ顔でテーブルの空いていた子に腰をろし、私に向かって顎をしゃくった。
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だが――私は久史の言葉などに入っていないかのように、にしたビールの瓶を傾け、隣に座る晃のグラスへと黄の液体を注いだ。 そして、久史のには取り皿も、箸も、お茶の杯すら並べようとはしなかった。
義父も、義母も、晃も、未優でさえも、久史のを完全に空気として扱い、無を決め込んだ。 「おい! 久々に帰ってきてやったっていうのに、俺を無するな!」 鳴り散らす久史を完全にやり過ごし、私はみんなに向かって声をかけた。
「それじゃ、いただきましょうか」
「ご主様を無するとはした度胸だな! おがそのつもりなら、婚だ!!」
り狂って喚く久史の声に、私はため息をつ吐きすと、静かにちがった。 そして、寝のクローゼットから、あらかじめダンボール箱つにまとめておいた久史の私物のすべて――や靴、趣の具を両で抱えて持ってくると、ドサリと久史の元へ無言で突きしたのだ。 そして、何事もなかったかのように自分の席へ戻り、再び箸をにして事を再した。
「お、おい……なんだよこれ!? どういうことだよ!?」
で騒ぎてていた久史は、ふと、テレビボードのに飾られていた真しい製の写真てに目を留めた。 その写真を見た瞬、久史の顔に、底の悪い気な笑みが浮かんだ。