"汚れた手と呼んだ義母へ" 第2話
恵子の声は、静かだが凛としていて、部の空気を瞬で静まり返らせた。
雅代は瞬、恵子の堂々とした佇まいに気圧されたように言葉を詰まらせたが、すぐに嫌そうに扇子をパチンと鳴らした。
「ふん、お分りいただければよろしいのよ。の程というものをっていただかないとね」
恵子は雅代の捨て台にも顔ひとつ変えず、く礼した。
「佐伯様。私はこれまで、介護福祉士という仕事に誇りを持って現にち続けてまいりました。病気や老いによって自分らしさを失いかけた方々が、最までとしての尊厳を保てるよう支えるのが、私の仕事です。病原菌扱いされる筋いも、嘘の職業を名乗る理由もございません」
「なっ……何ですって!?」
雅代の顔が赤く腫れがる。
「美咲。きましょう」
恵子はそれだけ言うと、呂敷包みを抱えてちがった。美咲は溢れる涙を拭おうともせず、翔太のを振り払って恵子のに続いた。
「美咲! 待ってくれよ美咲!」
背で翔太が焦ったような声をあげたが、追ってくる気配はなかった。母親の睨みつける線に怯え、席をつことすらできなかったのだ。
料亭のなをくぐり、の京都へと踏みした、美咲はついにそのに泣き崩れた。
「ごめんなさい……お母さん、ごめんなさい! 翔太さんがあんなにけないだとわなかった……お母さんの切な仕事や、いを込め届けてくれたお祝いまで踏みにじられて……私、悔しくて……っ!」
広告
恵子はで肩を揺らす娘の背に、温かく確かなを添えた。
「泣くことはないわ、美咲。あそこでお祝いを渡さなくてよかった。あれは、あのたちのに置くべきものではなかったのよ」
「でも……」
「美咲、よく聞きなさい」
恵子は娘の目を真っ直ぐに見つめた。
「の労働や専性を蹴にし、者の尊厳を平然と傷つけるが、パートナーとなったあなたを尊できるとう? 翔太さんは、決して悪ではないのかもしれない。けれど、あなたを守るために自分の族と戦う覚悟も、自分のでつさもない男よ。そんな男の横で、あなたが幸せになれるかしら」
恵子の言葉は、容赦なく現実を突きつけるものだったが、同に美咲へのいに満ちていた。
「私はね、あなたがどんなを選んでも応援するわ。でも、自分を殺してまで誰かに選ばれようとする婚姻なら、そんなものは最初から破り捨てなさい。あなたには、自分を誇ってきる権利があるのよ」
美咲はしゃくりあげながら、何度も頷いた。
その夜、坂本のリビングで、美咲のスマートフォンが何度も震えた。画面には『翔太』の名が表示されていた。通欄に踊るメッセージをくと、そこには言い訳と自己弁護の言葉がき連ねられていた。
『美咲、今は本当にごめん。でも母さんは昔から佐伯の世体を番に考えてきたなんだ。
広告
悪気はないんだよ』『僕たちの将来のために、今回はお母さんに折れてもらえないかな? 母さんに謝っておけば、式の費用も父さんが全額してくれるって言ってるし』『美咲、返事をちょうだい。僕たちのは本物だろう?』
美咲は画面を見つめたまま、文字を入力する指を止めた。
「僕たちの」という言葉が、あまりにも空虚に響いた。翔太が守ろうとしているのは、美咲とのでも将来でもなく、佐伯という庇護のもとで享受する自分の泰なだけだったのだ。
美咲はスマートフォンの画面を伏せ、く息を吐きした。母が際よく淹れてくれたかい緑茶の湯気が、え切ったにしずつ染み渡っていった。
それから、かが過ぎた。
美咲と翔太の関係は完全にえ切っていた。美咲は結婚準備のやり取りをすべてストップさせ、翔太からの連絡にも最限の素っ気ない返事しか返さなくなった。翔太は「母さんの嫌が治まるまでしを置こう」と能気に考えているようだったが、美咲ののでは、着実に覚悟が芽えつつあった。
そんなもまったある、佐伯の誇る巨な医療ネットワークの裏側で、決定な危が勃発していた。
京都郊の閑静な級宅に構える、超級料老ホーム『グランドメゾン京都』。