"汚れた手と呼んだ義母へ" 第5話
。それが、佐伯という名の考回だった。
美咲は呆れ果てて言葉を失った。
翔太は美咲の沈黙を承諾と受け取ったのか、調子に乗って言葉を続けた。
『これでお母さんも、佐伯に貸しができるだろう? そうすれば母さんだって、僕たちの結婚を認めてくれるはずだ! これはお母さんにとってもチャンスなんだよ、美咲!』
「……チャンス?」
美咲の声が、恐ろしいほどくなった。
その隣で、緑茶の湯気を静かに見つめていた恵子が、ゆっくりと顔をげた。
恵子の瞳には、侮辱に対するりではなく、圧倒なプロフェッショナルの矜持と、愚かな男に対するいややかさが宿っていた。
「……チャンス、ですか?」
美咲のくややかな声が、静まり返った坂本のリビングに落ちた。
スピーカーモードの画面向こうで、翔太は美咲のりにまったく気づいていない様子で、まくてるように言葉をねた。
『そうだよ美咲! 父さんも『あの坂本さんというが解決してくれたら、言を撤回して正式に親としてお迎えする』って言っているんだ! 当の万円だって、払いでもいいってさ。だからお母さんにすぐ準備してもらって——』
「佐伯翔太さん」
美咲からスマートフォンを受け取った恵子が、静かに、だが確な輪郭を持った声で割り込んだ。
『あ……伯母さん!? 聞いていらっしゃったんですか! よかった、お願いです、今すぐグランドメゾン京都に来てください! 祖父が暴れていて、もう誰もがせないんです!』
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「お言葉ですが」
恵子の声には、りもの波ちもなく、ただ現で培ってきたプロフェッショナルとしての徹な平坦さだけがあった。
「介護という営みは、銭で買い叩くパフォーマンスでもなければ、どなたかの面目やご嫌を取り繕うための具でもありません」
『えっ……? いや、買い叩くなんてそんな! 額な謝礼をお支払いすると言っているんですよ!?』
「私どもが提供するのは、公な制度に基づいた正規のケアです。個の私な買収や、裏での利きといった透なご依頼はお引き受けできません。お義父様の状態が真に切迫しているのであれば、施設として正式な政続きを経て『京都域包括支援センター』へ緊急派遣請をってください」
『政を通したら記録に残るじゃないですか!』
翔太の鳴のような声が響いた。
『そんなことをしたら、祖父が認症で狂乱したという事実が自治体に把握されてしまう! 今週末にはファンドの察があるんです! 父さんの施設の計画に傷がついたらどうするんですか!』
「施設の都や計画よりも、患者様の命と尊严が優先されるべきです。ルールに基づかない介入は切いたしません。失礼いたします」
「あ、ちょっと待っ——!」
恵子はためらいなく通話終ボタンを押した。
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リビングに再び静寂が戻る。美咲はく息を吐きし、胸のつかえがすっとりていくのをじていた。
「お母さん……ありがとう」
「お礼を言われる筋いはないわ」
恵子はめた茶をみ、静かに微笑んだ。
「あのたちは、自分たちの作ったと位の檻のでしか物事を見られないのよ。でもね、美咲。向こうは本当の獄をまだ分かっていないわ。度のBPSDは、力やでねじ伏せようとすればするほど、猛獣のように暴れすものなの」
恵子の予言は、そのわずか数に完全な現実となった。
夜の『グランドメゾン京都』最階VIPエリア。
壊された欧製の級チェストの破片が散らばり、壁は引っ掻かれ、絵画がに転がっていた。佐伯健郎は、割れた瓶のガラス片をに握りしめ、血のついたでづく者を威嚇し続けていた。
「寄るな! 殺される! ワシの財産を狙うコソどもめ! 毒を盛ったろう! せ、ここからせぇ!」
老の切声が階にまで響き渡る。
監モニターでその惨状を見ていた佐伯崇は、額に青筋を浮かべて拳を机に叩きつけた。
「ええい、使えない奴らばかりだ! 警備員は何をしている! 取り押さえろと言っているだろう!」
「常務、無理です!」
施設が泣きそうな顔で叫んだ。
「健郎様は割れたガラスをお持ちです! 引に突入すれば、警備員だけでなく健郎様ご自の頸脈を傷つける恐れがあります! もし事故でも起きれば、どころか施設全体の営業止処分です!」