"汚れた手と呼んだ義母へ" 第11話
そのはけなく震えており、目には余裕の欠片もなかった。
「美咲、頼む! お母さんを止めてくれ! 父さんは冗談で言ってるんじゃないんだぞ! 本当にあの報告がされたら、うちのグループは終わりなんだ!」
美咲はややかな目で、自分にしがみつく男を見つめた。
「終わり……? 何が終わるの、翔太さん?」
「全部だよ! グランドメゾンのだけじゃない、僕の学病院でのだってどうなるか分からないんだ! 来、助教授への昇事があるんだぞ!? 義理の母親が実の施設を虐待で告発したなんて噂がったら、僕の医者としての将来は完全に閉ざされる!」
翔太の声は鳴にかった。そこには、衰した祖父への配も、理尽な目にあっている美咲や恵子への申し訳なさもしなかった。あるのはただ、自分の保とキャリアへの恐怖だけだった。
「ねえ、美咲……お母さんに言ってくれよ。『今回は見逃してくれ』って! 報告の内容をしき換えるだけでいいんだからさ! 『軽度の混乱に対するな処置だった』っていてくれれば、父さんだって納得する! お願いだから僕たちの未来のために、お母さんを説得してくれ!」
翔太は膝を折らんばかりの勢いで、美咲に乞い願った。
美咲はく、く息を吐きした。
胸の奥で、3切に温めてきたが、音をてて砕け散っていくのが分かった。
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この男は、料亭で母親が消毒スプレーをかけられたも、僕たちのためにしろと言った。そして今、祖父が危険な過剰投薬で苦しめられ、自分の母親が権力で脅迫されているも、自分の将来のために正義を捨てろと言っているのだ。
「翔太さん」
美咲の声から、すべての温もりが消えっていた。
「あなたが見ているのは、私でも、おじいさまでも、医療でもないわ。自分と佐伯の都だけよ」
「え……? 何を言っているんだよ美咲、僕は僕たちの結婚のために——」
美咲は翔太の言葉を遮り、の薬指に輝いていたプラチナの婚約指輪にをかけた。
ゆっくりと指輪を抜き取ると、美咲はそれを翔太の震えるのひらへと押し付けた。
「っ!? 美咲……これ、どういうだよ……!?」
翔太が目を見く。
美咲はバッグのから、事に用していた枚の面を取りした。すでに美咲の署名と捺印がなされた『婚約解消通』だった。
「婚約を解消します。あなたとの結婚は、切取りやめます」
「な……何言ってるんだよ!? 急にそんなこと……僕たち、式の配だってめていたじゃないか! 父さんもお母さんも、今回の件さえ収まれば結婚を認めるって——」
「認められる必なんて、最初からありません」
美咲は毅然とした態度で直した。
「私はね、お母さんの背を見て育ってきたの。
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自分の仕事に誇りを持ち、どんなに当な扱いを受けても患者さんの尊厳のために戦うお母さんを、から尊敬しているわ。そのお母さんの信を踏みにじり、保のために嘘をつけと求するようなと、私はを共にすることなんてできない」
「美咲! 考え直せよ! 僕と別れたら、君だって将来どうなるか分かってるのか!? 普通の護師の料で、どんな暮らしができるっていうんだ! 佐伯に嫁げば裕福な暮らしが約束されていたんだぞ!?」
翔太のからびしたのは、あまりにも浅ましい本音だった。
美咲はれみすら込めた線を翔太に向け、静かに首を振った。
「おや世体のために自分を売るようなき方は、もう結構です。さようなら、佐伯翔太さん」
美咲はきっぱりと言い捨てると、切振り返ることなく背を向け、歩きした。
「美咲! 美咲待ってくれ! 頼むから捨てないでくれ!」
背で翔太がけない鳴をあげながら追いかけてこようとしたが、VIPルームからてきた恵子が、然とそのにちふさがった。
「佐伯先。これ以、娘に触れないでいただきたい」
恵子のに纏う圧倒な威厳に気圧され、翔太はピタリとを止めた。
「失礼いたします」
恵子と美咲は、並んでエレベーターへと乗り込んだ。閉まる扉の隙から見えた翔太の顔は、絶望と恐怖で酷く歪んでいた。
支援センターへ戻った恵子は、直ちにを起こした。