"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第1話
事務所の入りの引き戸が、乾いた音をてて細くいた。
の曇り空から忍び込んできた初の気が、のコンクリートを撫でていがってくる。
パイプ子に浅く腰かけた女性は、膝のに揃えて置いた両の指先をかすかに張らせ、目のに座る浦卓郎の顔をじっと見つめた。その瞳には、すでに幾度となく同じ拒絶を浴びてきた者特の、諦めとわずかな覚悟が沈んでいる。
女性は卓郎が元の類から目をげるのを待たず、喉を微かにさせてから、自分から先に尋ねた。
「やっぱり、子連れじゃ駄目ですか? もう社に断られて、ここが社目なので」
卓郎は顔をげ、机の端に置かれた履歴へと線を落とした。
の転落事故で先代の父を失い、次々と職がって、今や腕の確かな者は古参の久保田と若い田のだけにまで減ってしまった限会社浦組。運転資も底をつきかけ、これが最になると覚悟してした求票に対して、締め切り際にたった通だけ届いたのが、この履歴だった。
卓郎は乾いた唇をわずかにき、いのに並ぶ文字を指先でなぞった。何度見返しても、そこに印刷された経歴は目を疑うものだった。
『ハーバード学 学・応用科学部 卒業』
そののに、然とした致で国資格の名称が連なっている。
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『の組て等作業主任者』
『玉掛け技能講習 修』
『職・全責任者教育 修』
『とび技能士 級』
図面を引くための最峰の学歴と、にまみれて鉄を担ぐの臭い資格が、たった枚の同じのに同居していた。
けれど、この特異極まりない経歴は、これまでに彼女が受けた社の面接で、ただの度も最まで読まれることはなかった。学歴に審の目を向けられ、職歴を訝しがられ、そして最には決まって同じ言葉で話を遮られてきたのだ。
――「それで、そのさいお子さんは現のどうするんですか?」と。
そして今、この履歴をにしている社の浦卓郎自もまた、誰にもかせない致命な欠陥をそのに抱えていた。
卓郎はのあの事故の以来、脚の段目にすらがることのできない「所恐怖症の」へと成り果てていたのである。
そのだった。
の隅にてかけられていた資材のから、さながびしてきた。
歳になる女の子――望向が、母親の制止を聞くもなく、壁際にく積みげられていた単管パイプのへとさなを伸ばし、よじ登ろうとしたのだ。
(危ない――!)
卓郎の考が警報を鳴らすより先に、体がいた。
まだこのの卓郎はる由もなかった。
この母と子との会いが、倒産寸まで傾いた会社も、面から歩もがれなくなっていた自分自も、まとめてあの懐かしくい空へと引きげていくことになるのだとは。
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単管パイプのに体を預けたさな体が、力に引かれてぐらりと傾く。
卓郎は座っていたパイプ子をガタリときな音をてて蹴倒すようにちがると、を歩で詰め、倒れかけたちびた靴の体を細い腕ごと抱き止めた。
次の瞬、支えを失った数本の鉄パイプが崩を打って崩れ、けたたましい属音をててコンクリートのへ転がった。
ガシャン、ゴロゴロと、い鉄と鉄が激突する暴力な残響が方のトタン壁にね返り、事務所の狭い空気を震わせての奥へ突き刺さる。
「向! 駄目だと言ったでしょう!」
母親である望薫が血相を変えて駆け寄り、卓郎の腕のからさな体を素く引き取った。
薫は向を抱きしめたまま、卓郎に向かって腰を直角に折り、何度もをげた。
卓郎はそのくげられた黒髪を見つめながら、乱れた呼吸をえ、何と声をかけるべきか瞬迷った。線を向のさなへと巡らせ、擦り傷がないか確かめてからをく。
「……怪はありませんか? うちは事務所と言っても、見ての通り現ののようなものですから。そこらに危ないものばかり置いてあります」
「本当に、申し訳ありません……。何度言い聞かせても、いところを見つけると、すぐに登ろうとしてしまう子で……」