"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第4話
首の内側には、袖の作業着と革袋の隙が焼けた、くっきりとした焼けの境界線が残っていた。
そのは、の効いた設計で優雅にペンを握り、サインをするためだけのでは決してなかった。
これまで腕を組んで黙りこくっていた久保田が、子の背を軋ませ、くしゃがれた声でをいた。
「……奥さん。単管の、建のスパンは?」
薫は線を久保田の鋭い目へと真っ直ぐに向けた。
「桁方向・メートル以、梁方向・メートル以です」
「壁つなぎの隔は」
「単管であれば、垂直メートル以、平・メートル以。枠組であれば、垂直メートル以、平メートル以です。作業の積載荷は百キログラムを超えてはなりません」
即答だった。
いすためのも、ので数式を捏ね回すような躊躇も切なかった。
久保田の組んでいた腕が、ゆっくりと、自然に解けていく。
机のの規則本を暗記しただけのが吐きす数字と、その数字が持つみ――現で命を支えるためのを、己の骨に刻み込んできたの答え方はまるで違う。以現のを吸ってきた久保田には、その違いが嫌というほど分かったはずだった。
「……祖父が、さな鳶の会社を営んでいました」
薫の張っていた表が、そこでふっと、陽だまりのような微かな柔らかさを帯びた。
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「学の頃の休みは、毎のように資材置きや現へ連れてかれていました。私は、鉄骨と板の匂いので育ったようなものなんです。その祖父が、をけば私に言い続けていました。『これからの鳶は、腕っぷしだけじゃ駄目だ。構造の計算ができて、図面が引けるが番いを組むんだ』と」
薫は向のにを添え、ゆっくりと言葉を続けた。
「の相談の、担任の先から、には学費も活費も全額る付型の奨学制度があると教えていただきました。受かるはずがない、駄目で元々だという気持ちで願をしたんです」
卓郎はを乗りした。
「それで……本当にハーバードへ?」
「格の通が届いた、祖父は作業のまま、資材置きの真んで声をげて泣きました。学費と寮費はすべて支されましたが、ボストンまでの往復の代だけは、祖父の現を伝って自分で貯めました」
薫はそこだけ、しになった。
「学では建築構造と力学を専攻しました。卒業して帰国してからは、ゼネコンの設計部に入りました。けれど……図面を何枚、何百枚と引いているうちに、どうしても納得できない違が胸のに膨らんできたんです」
「納得できないこと……ですか?」
「全を決めているのは、机ののきれいな図面ではなく、吹き晒しの所で、実際にボルトを締め、番線を巻き、を組みげるの『』だということです。
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現の職がどんな姿勢でそのパイプを受け取り、どこに命綱を掛けているのか、それを肌でらないまま、全な部で図面を引き続けるのが……どうしても怖くなってしまったんです。だから、会社に頼み込んで現施の部署へ移りました。周りからは、せっかくのキャリアを捨てるのかと、随分もったいないと言われましたけれど」
卓郎は元の履歴に、もう度線を落とした。
の主任者、玉掛け、とび級。
淡々と並んだ文字が、今度はに打たれる彼女の血肉の通った歳となって、鮮やかに浮かびがってきた。もったいないなどというっぽい言葉で片付けていいではない。
「……の会社を辞められたのは、どうしてですか?」
卓郎の問いに、薫は線をわずかに伏せた。
「婚をしたからです。……詳しい事については、いずれが来たら、きちんとお話しします」
その声のトーンが急激にく沈んだのを察し、卓郎はそれ以、踏み込んで詮索することをやめた。代わりに、経営者として、どうしても伝えておかなければならない現実をにする。
「うちは……正直に申しげて、決して条件のいい会社ではありません。仕事も、今は胸を張れるほどくはありません。社会保険に入るのが精杯で、ボーナスもしてやれないかもしれない。