"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第7話
からメートル、脚の段目にをかけただけで、胃の底から鉄錆の匂いが喉元まで競りがり、臓が鐘を打ち、界の端がくかすんで呼吸ができなくなるのだ。
その恥ずべき事実をっているのは、この会社では先代のを共に見届けた久保田だけだった。あの以来、卓郎は図面の段取りと元請けとの打ちわせ、そしてでの資材配りしかできない「お飾りの社」に成りがっていた。
昼を挟み、午番で側の壁に取りかかったのことだった。
田が層目のにち、建物とを繋ぎ止めるための「壁つなぎ」を取ろうと、壁のモルタルに向けてハンマードリルを構えた。躯体にアンカーボルトを打ち込むための穴をけようとしたのだ。
その振りげた腕を、からがってきた薫が横から素で制した。
「田君、そこはやめてください」
「……は? なんでですか。図面の指示位置、ここスよ」
田がそうに眉を吊りげた。
薫はで言い争う代わりに、腰の革製具袋から、使い込まれたさなテストハンマーを抜き取った。
そして、田がドリルを当てようとしていた壁のモルタルを、首のスナップを利かせてコン、コン、コンと箇所、軽く叩いてみせた。
最初の箇所からは、乾いた「コツン、コツン」
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というい音が返ってきた。
だが、田が狙っていた箇所目――そこを叩いた瞬だけ、濁った「ボコッ」というく鈍い空洞音が、周囲の空気に穏に響いた。
現のの音が、ふっと止まったように卓郎にはじられた。
「この範囲は、モルタルがのコンクリートから浮いています。ここにいくらアンカーを打ち込んでも、表面が効いているように見えるだけで、躯体と体化していません。突が吹いた、壁つなぎが箇所でも抜ければ、そこを支点にして全体が側へねじれます」
田はドリルを構えた腕をろし、まだ半信半疑といった表で壁と薫の顔を見比べた。
卓郎は、自分でも無識のうちにから駆け寄り、のまで歩み寄っていた。
「望さん、そのハンマーを貸してくれ」
薫からハンマーを受け取り、卓郎は自らので壁を叩いた。
コツン、コツン――ボコッ。
鈍く湿った触が、ハンマーの柄を通して卓郎の掌へダイレクトに返ってきた。
その瞬。
の、あの温かいののの記憶が、背から音もなく追いつき、首筋を鷲掴みにした。
駅の商業ビルの築現。
程の遅れを取り戻そうと焦った元請けが、壁のシーリング補修の邪魔になるからと、浦組に無断で壁つなぎを箇所だけ取りし、そのまま戻さなかった。
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の吹き荒れたそのの午、をまともに孕んだシートに引っ張られ、層目のが音をててねじれ、崩壊した。
倒壊してきた巨な鉄骨の建の敷きになった先代社・浦義雄は、救急ので、病院へ着くに息を引き取った。
卓郎はその、真の資材置きで、図面を広げてっていたのだ。
からってきた鳴のような属の破壊音を聞き、ただ呆然と、崩れ落ちてくる鉄の塊を見げることしかできなかった――。
(……っ!)
卓郎の指先が激しく痙攣し、握っていたテストハンマーの柄が、じっとりと吹きした汗で滑った。
薫がその卓郎の異変に気づいたことが、彼女の線のわずかな揺らぎで分かった。
だが、薫は何を詮索することもなく、静かに田の方へと向き直った。
「モルタルが浮いていない健全な範囲まで、アンカーの位置をセンチげましょう。その代わり、耐力を補うために垂直方向の隔を詰めて、壁つなぎを箇所増やします。具が増える分のは、私がすべて引き受けますから」
田はドリルの先端についたを作業で拭い、やがてヘルメットを度脱ぎ、く被り直した。
「……わかりました。すんません、俺も伝います」
その、浦組のは、予定していた程表よりもく、完璧な垂直精度で組みがった。
トラックの荷台へ具を片付け終えた、久保田が煙を咥えながら、薫の隣へと無言で歩み寄った。