"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第18話
……ドアをけてください、望さん」
「私はもう、御社のではありません」
隙の奥で、向が母親のズボンの裾にすがりついているのが見えた。薫はそのさなを、庇うようにそっと背へ隠した。
「この子には……来の賃と、来の保育料が必です。私のつまらないやプライドでは、そのどちらも払ってやれません」
「うちは……あなたがいてくれなければ、回りません」
「回らない会社に、私は残るわけにはいかないんです」
薫の声は、氷のようにたく、けれど脆く震えていた。卓郎には、それ以言い返す言葉が見つからなかった。
「……浦さん。あの朝の、濃いお茶……本当に、美しかったです」
バタン、と静かにドアが閉じられ、チェーンの噛みうい音がたい階段に響いた。
卓郎は階段を段り、アパートの窓を見げた。
階のいカーテンの向こうにはかりが灯っていたが、度とくことはなかった。
卓郎は軽トラックの荷台に腰をろしたまま、の夜のがすべてを覆い尽くすまで、そのからくことができなかった。
それ以、薫が事務所に姿を現すことは度となかった。
田は毎朝、引き戸がくたびにハッと顔をげたが、それが聞配達や郵便だと分かると、何も言わずに具の入れへと戻った。
久保田は机のの福帳をいたまま、煙の煙を吐きすだけで、数が極端に減った。
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浦組の座に残された残は、あとヶ分の諸経費を支払えば、綺麗さっぱり底をつく計算だった。
壁に貼られた、の付のままの程表。
その隣で、作業着姿の先代が、遺の額縁ので好きのする顔で笑っている。
(結局……俺は親父の遺したこの会社に、何つ残せないまま、終わらせてしまうのか)
その絶望な問いに答えてくれる者は、寒々とした事務所のに誰としていなかった。
薫が姿を消してから、目の昼のことだった。
「……社。つ、聞かせてくれ」
資材置きで、錆止めの塗料を塗っていた卓郎の背に、久保田のく太い声がかかった。
卓郎が刷毛を止めて振り返ると、久保田は面をパタンと閉じ、真剣な差しで卓郎を見据えていた。
「望さんのあの法が、元旦に盗まれたって話だがよ。……それを証できる証拠は、本当に何つ残ってねえのか?」
「本が、そう言っていました。きのノートは盗まれて処分され、で個に引いていた図面には確定付がないと……」
「本が、い込んでるだけかもしれねえぞ」
久保田は煙を指に挟み、の井を仰いだ。
「先代が、を酸っぱくして言ってただろうが。『職の仕事ってのはな、必ずどこかに痕跡が残るんだ』ってよ。締めたクランプの傷にも、切った番線のねじり目にも、現のどこかに必ずそののが残る。
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が、と本気でやってきたことが、この世から綺麗さっぱり消えてなくなるなんてことは、絶対にあり得ねえんだよ」
その瞬。
卓郎の脳裏で、何かがパチンと音をてて繋がった。
――歳の休みの教で、畳むと平らになる櫓を作った。
――あのセンターでは、に度、子供の作品を写真付きで載せた館報が配られていた。
作った付も、その仕組みの図面も、そして作った子供の氏名も。
公な印刷物であるあののには、すべて克に記録されていたはずだ。
「久保田さん! すみません、ちょっとます!」
卓郎は刷毛を放りし、軽トラックにび乗った。
役所の涯学習課の窓へ駆け込み、分証を提示して事を説すると、若い職員が公文の保管庫を丁寧に調べてくれた。
しかし――分に戻ってきた職員のから告げられたのは、期待を打ち砕く回答だった。
「変申し訳ございません。当、児童館やものづくりセンターで配布していた館報は、の広報誌とは異なる『施設内配架の消耗品』という扱いになっておりまして……規定の保限であるを過ぎたものは、すべて廃棄処分されております。図館の郷資料にも、所蔵はございません」
「どこにも……部も残っていないんですか?」
「施設をご利用されていた民の方が、個に保管されていれば別ですが……といたしましては、これ以ご案内できる資料がございません」