"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第21話
荒い黒印刷の横に、作品名と作者の氏名、学が活字で刻まれていた。
ペラペラとめくる指先に、古い特の乾いた匂いが移っていく。
卓郎のが、あるページで止まった。
学の、廃材と麻紐だけで組みげた、自分の『トラス』の写真が載っていた。
「母さん、そのが番好きだったよ」
代が自分の分のページを繰りながら、懐かしそうに微笑んだ。
「お父さんはね、面と向かってはおを褒めなかったけど……その館報が届いたは、必ず現に持ってってね。『うちの息子が作ったんだ』って、職たち全員に見せびらかして自してたんだよ」
父に褒められた記憶など度もなかった卓郎にとって、それは初めてる、き父の横顔だった。
その、代のめくるがピタリと止まった。
「……卓郎。これじゃないかい?」
差しされたのは、の号の館報だった。
ページの。
平らに折りたたまれた状態の板状のフレームと、それを引き起こして体トラスにした状態の模型写真が、枚並んで掲載されていた。
写真の横には、子供の丸文字を活字に起こした解説文が、はっきりと印刷されていた。
『せまいところでもあんぜんにくめるように、じめんでねかせてくんでから、おこせるようにしました。さんかくのすじかいをいれると、たおれません』
そして、作品名のに刻まれた文字。
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『学 望薫(歳)』。
卓郎の指先が、激しく震えた。
黒写真に写るフレームの構造、筋交いの噛みわせ、部のプロポーションは、あの、彩テクノ建設の説会で篠原が誇らしげにスクリーンに映しした3Dモデルと、輪郭に至るまで完全に致していた。
「母さん……もっとないか!? この子の名が載ってるやつ!」
での号をめくると、翌の号にも、号にも、望薫の名と詳細な改良記録が連載されていた。
ヒンジ具の寸法を変えたこと、を受けたの耐久テストの結果、そして最終号には、『将来は構造の力学を学び、全なものづくりのにんでほしい』というセンター指導員の絶賛の講評まで添えられていた。
表には、いずれもの教育委員会が発した公なが、鮮に印刷されていた。
卓郎は冊の冊子を畳のに並べ、両でく押さえつけた。
これは、望薫が歳の、自らのとでこの法をみしたという、かしようのない決定な証拠だった。篠原が社内コンペで社賞を掠め取るより、実に以もの付が刻まれていたのだ。
「……卓郎。それが、そんなに事なものなのかい?」
「うん。……これで、うちの切な社員の仕事と誇りが、取り返せる」
代は卓郎の顔をじっと見つめ、それから嬉しそうに目を細めて笑った。
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「……いい顔になったね、卓郎。仕事の話をするの顔が、お父さんにそっくりだよ」
卓郎が冊の冊子を丁寧に鞄に詰めていると、代が押入れの奥から、使い古された段ボール箱を抱えて戻ってきた。
に入っていたのは、表の擦り切れた何冊もの学ノートだった。
「お父さんの……現誌だよ。どうしても、捨てられなくてね」
卓郎は息を呑み、番の冊をいた。
几帳面な角ばった文字で、付、現名、候、そしてそのの作業内容が記録されている。
数ページめくったところで、卓郎は自分の名を見つけ、指を止めた。
『卓郎、初めてで面のを掛ける。寸法よし。締めよし。ただし、まだの戻りが遅い』
そして、その次のには、こうき殴られていた。
『卓郎の組んだは、真っ直ぐで素直だ。見ていて気持ちがいい。……いつか、追い越されるな』
界が、瞬くに滲んで歪んだ。
瞬きをすると、いたノートのページのに、丸い涙の染みがポツリと落ち、鉛の文字をかすかに滲ませた。
卓郎は慌ててノートを閉じ、井を仰いだ。
のきにわたり、面と向かってはただの度も息子を褒めることのなかった頑固な父親。
そのが、誰にも見せない現ノートの片隅でだけ、息子の成を誰よりも誇らしげに認めていたのだ。
卓郎は作業着の袖で乱暴に顎の涙を拭った。
母にだけは、泣いている顔を見せたくなかった。