"「手術は後でいい」三千万円の古希祝いに狂った夫の末路" 第7話
私にはそう言っていた。
けれど、親戚たちから「良い息子さんを持ったわね」と羨ましがられるうちに、良枝の態度もしずつ変わっていったのだ。
「孝之がどうしてもって言うから」
良枝は友たちに、嬉しそうに自するようになった。
そしていつのにか、その豪華な宴席は、良枝にとっても当然のものになっていったのだ。
対照だったのは、私の母である久美子の姿だった。
孝之の実のリフォーム事が始まった頃、久美子の臓の数値が悪化した。
そして、術の具体な話が始めたのだ。
私は良枝のお祝いの準備に追われる方で、久美子の病院にも通う々が続いた。
ある、病で久美子がさく折り畳んだ1000円札を私のに押し付けようとした。
「これで帰りに、何か美しいものでもべなさい」
私が断っても、久美子は頑なに引きがらなかった。
「孝之さんのご実、今とてもおがかかっているんでしょう?」
母は私の顔を伺うようにして、さく言った。
「私の術なんて、しくらいでも丈夫だからね」
その言葉を聞いた、私は胸が締め付けられるような激しい痛みをじた。
久美子は自分の命に関わることなのに、孝之たちにく慮していたのだ。
孝之がので「3000万円」という数字を誇らしげに語る空気が、私の態度を通じて久美子にまで伝わってしまっていたのだろう。
広告
「そんなことない。お母さんの術が番切よ」
私はそう言って笑ったが、声がどうしても震えてしまった。
片方の親は数千万というおを使い、周囲から賞賛を浴びている。
もう片方の親は、娘の夫婦関係を気遣って、自分の治療費すら申し訳なくっている。
このいびつな庭の優先順位に、私はずっと目をつむってきた。
波をてないように、お祝いの空気を壊さないように。
その結果が、今のあのホテルの惨状だ。
久美子の術がまるかもしれないと伝えた、孝之は全く興を示さなかった。
自分の完璧な「親孝の台」にを差されたくなかったのだろう。
の命よりも、自分の見栄を優先したのだ。
病院の廊に、たいが吹き抜けた。
私は自分の両をじっと見つめた。
久美子の同にサインをしたが、まだしだけを持っている。
私は今、孝之の嘘にまみれた台からりることを選んだ。
観客が1消えたことで、あの完璧だったはずの祝宴にさな穴がいたのだ。
『お義姉さん、今どこにいるの?』
義妹からのメッセージは、その穴がすでに広がり始めていることをらせていた。
私は画面に触れて、返信を打ち込んだ。
『母の容態が急変して、今病院で緊急術をしているの。ごめんなさい、お義母さんによろしく伝えて』
送信ボタンを押した直だった。
広告
今度はメッセージではなく、話の着信画面がるくった。
ディスプレイに表示された名に、私は瞬息をんだ。
それは義妹からではない。
ホテルの部に引きこもったはずの、良枝本からの着信だったのだ。
スマートフォンの画面でくる「良枝」という文字を、私はじっと見つめていた。
ホテルの宴会で、親戚の輪のにいるはずの義母からの着信だ。
病院の暗い廊には、くで護師の歩く音だけがさく響いている。
私は呼吸を1つして、震える指で通話ボタンを押した。
「はい。直子です」
私が静かに答えると、話の向こうからはし焦ったような、い声が聞こえてきた。
「あなた、今どこにいるの?」
良枝の声は、周囲のを気にするようにひどく潜められていた。
「妹から、久美子さんの病院に向かったって聞いたけれど」
おそらく宴会をこっそり抜けして、廊の隅か化粧から話をかけてきているのだろう。
私は自分の目のにある術のい扉を見つめながら答えた。
「はい。今、母の緊急術の同にサインをして、術ので待っています」
話の向こうで、良枝が「あっ」とく息をむ音が聞こえた。
「緊急術?……どういうことなの?」
良枝の言葉に、私はしだけ眉をひそめた。
「孝之さんから、お聞きになっていませんか?」
私は静かに問い返した。