"4500万の城を奪われた夜" 第1話
「暗証番号が違います。もう度入力してください」
無質な子音が、静まり返ったマンションの内廊にく響いた。 野葵はに提げたいキャリーケースのハンドルを握り直した。の阪張を終え、幹線と私鉄を乗り継いで調布のマンションに帰り着いたのは、午を回ったところだった。
指先がえ切っているせいかと、もう度、慎に桁の数字をプッシュする。 ピーッ、ピーッ、ピーッ。 拒絶の子音が連続して鳴り、スマートロックのインジケーターが赤く点滅した。
違いようがない。にを叩き込み、ローンを組んでに入れた、葵名義の2LDK分譲マンション。暗証番号は入居以来、葵の誕でも親の命でもない、自分だけがるランダムな数列から変えたことがない。
葵は眉をひそめ、ドアの横にあるインターホンの呼びしボタンを押した。 チャイムの音が内で鳴る。 すぐに廊の向こうから、ペタペタと無慮にスリッパを引きずる音がづいてきた。
ガチャリと属音がして、ドアがわずかセンチほどいた。ドアスコープの向こうから覗いた線と目がう。 「……あら、葵ちゃん? かったのね」
ドアチェーンをかけたまま顔を覗かせたのは、葵の父親の妹――叔母の野悦子だった。
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パーマのかかった茶髪に、葵が見覚えのない派な柄のエプロンをにつけている。その元には、葵がお気に入りで履いていた無印良品のグレーのスリッパがあった。
「叔母さん……鍵、変えましたか?」 葵は息をえながら、努めて平坦な声で訊ねた。 「あ、それ? 昨ね、栞が所のコンビニくときに番号を忘れちゃって入れなくなったのよ。だから覚えやすいように、敏男さんの誕に変えておいたわ。連絡するの忘れてたかしらね」
悦子はチェーンをし、ドアをきくけた。 「まあち話もなんだから入りなさいよ。靴、そこらへんに寄せてね」
玄関にを踏み入れた瞬、葵のが止まった。 わずか畳ほどのたたきに、見らぬのついた革靴、履き古したスニーカー、っぽいサンダルが何も散乱していた。傘てからはビニール傘が溢れ返り、壁には見覚えのない濡れたタオルが掛けられている。
そして、漂ってくる烈な臭気。 葵のでは絶対に許していなかった、濃いタバコの煙の匂いと、焦げ付いたニンニク油の混ざりった匂いだった。
「これ……何ですか?」 リビングへと続く廊には、茶の段ボール箱が井くまで積みげられていた。箱や箱ではない。活用品や古着が乱雑に詰め込まれ、ガムテープが斜めに貼られた箱の列が、廊の片側を完全に塞いでいる。
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「邪魔よねえ、ごめんなさいね。でも急だったから、とりあえず運び込むだけで精杯で」 悦子は悪びれる様子もなく、リビングのドアをけた。
目にび込んできた景に、葵のの芯がじんじんと痺れるような覚を覚えた。 葵が選んだ欧のオーク無垢材のダイニングテーブルのには、べかけの刺のパック、カップ麺の容器、発泡酒の空き缶が所狭しと並んでいた。 リビングのソファには、トランクス枚に汚れたシャツを羽織った柄な男――叔父の敏男が横たわり、音量でプロ野球の継を眺めていた。には葵のいラグが敷かれていたはずだが、いまや茶い染みがいくつも点し、タバコのが絨毯の繊維に擦り込まれている。
「おい悦子、ビールもう本ないのかよ。蔵庫空っぽじゃねえか」 敏男は葵が入ってきたことにも気づかないふりで、リモコンを机に放り投げた。
「ちょっと敏男さん、葵ちゃんが帰ってきたわよ」 悦子が声をかけると、敏男は面倒そうに片目を葵に向けた。 「ああ……お帰り。ご苦労さんだな」
それだけだった。のを占拠しているの態度ではない。まるで、遅れて帰ってきた居候を迎える主のような態度だった。
葵はキャリーケースを壁際に置き、悦子に向き直った。 「話が違います。叔母さん」
声が自然とくなった。胸の奥で、たいりが急速に固まっていく。
「栞ちゃんの学受験のために、京の試験会にい私の部に、栞ちゃんが週だけ泊まる。