"八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判" 第2話
タイムスタンプは、方になった当の夜――〇、午分です」
画面に表示された文字を、綾乃の目が捉えた。
『伯母さん、800万円はお返しします。私からは何も言わずに、内密に婚約を解消することに同します。だからお願いです、お腹の子を堕ろせなんて言わないでください。俊さんには迷惑をかけません。私で育てますから、これ以は……』
そこで文章は途切れていた。送信先のアドレスには、静恵の当の携帯番号が指定されていた。
庭の空気が、ふっとえた。
が止まり、くでるトラックのロードノイズだけが聞こえていた。
綾乃は、文字を文字ずつ、ので反芻した。
――お腹の子。
妹は、妊娠していた。
当歳だった奈央は、そんなこと、姉の綾乃にすら言も漏らしていなかった。
「……何よ、これ」
静恵の声が、わずかに裏返っていた。
「何かの違いよ。そんな鱈目なメール、あの女が自分を劇のヒロインに見せるために打った狂言に決まってるじゃない! だいたい妊娠だなんて、そんな汚らわしい話、私は度も聞いてないわよ!」
静恵は捲してながら、背の息子を振り返った。
「俊! あんた、何か聞いてたの!? この女の言うこと、ってたの!?」
俊はびくっと肩をねがらせ、線を面に落とした。
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額から油のような汗が滲みている。
「い、いや……俺は、何も……奈央ちゃんからは、何も……」
「ほら見なさい!」
静恵は勝ち誇ったように胸を張った。だが、その声の甲さは、自らの揺を塗り潰そうとしているかのようだった。
「うちの俊だって何もらないって言ってるわ。でっちげよ。嘘っぱちよ。うちからを奪い損ねたからって、になしをいいことに、とんでもない言いがかりを――」
「静恵さん」
綾乃は、静恵の言葉を平で断ち切るように遮った。
「奈央は、んだんですか」
静恵の唇が、自然な形で止まった。
「……は?」
「今、になしっておっしゃいましたよね。奈央はきて逃げたんじゃなかったんですか。あなたはずっと、妹がどこかの男と駆け落ちして、のうのうと暮らしてるって言いふらしてましたよね」
「そ、それは言葉のあやよ! 揚げを取らないでちょうだい!」
静恵の顔に、隠しきれない苛ちと焦燥が広がっていく。
綾乃は静恵から線をし、庭の池をもう度見た。
ショベルカーの鉄の爪が穿った穴の断面には、数センチのみを持つのコンクリート層がしていた。池の底を固めるための、頑丈な基礎コンクリートだ。
の運転をしていた作業員が、缶コーヒーを片に、警察官と話している声が綾乃のに届いた。
「いやあ、参りましたよ。
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底をさらってを捨てるだけの仕事だとってたのに、まさかコンクリのから鉄の箱がてくるなんてわないじゃないですか。あれ、のに沈んでたんじゃないですよ。基礎のコンクリをハツって砕いたら、そのの割栗のに挟まるようにして埋まってたんですから」
綾乃のが、無識に作業員の方へ向いた。
「あの、すみません」
「え? ああ、お姉さん」
「今、なんておっしゃいましたか? 庫は、のからてきたんじゃないんですか?」
作業員は首を傾げ、指を本てて見せた。
「ええ。なんて表面のセンチくらいですよ。そのにさセンチの鉄筋コンクリートが打ってあったんです。うちの親方が『池の漏れを直すために昔打った基礎だ』って言ってましたけどね。庫は、そのコンクリートスラブの真、砕の層にすっぽり収まってました。からコンを流し込んで固めなきゃ、あんな所に入り込むわけがないんですよ」
作業員は何気なく言った。
だが、その言葉のは、綾乃の胸にたい氷の杭のように突き刺さった。
コンクリートの。
コンを流し込んで固めなければ、入り込むはずがない所。
綾乃はゆっくりと振り返り、静恵の顔を見据えた。
静恵の線は、作業員の元と、綾乃の目を激しく往復していた。
藤のカーディガンの裾を握る指先が、刻みに引き攣れている。
「静恵さん。この池のコンクリート、いつ打ったものですか」
「るわけないでしょ! 昔のことよ!」