"八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判" 第5話
「神のババアだよ」
健は吐き捨てるように言った。
「自宅の固定話が鳴ってな。び起きて受話器を取ったら、あのババアが取り乱した声で喚くんだ。『池の底からが染みして盤が崩れそうになってる。今すぐ来てコンクリートを流してくれ』ってな」
「曜の朝に、コンプラントがいているはずがありません」
父の務を伝っていた綾乃には、建築の現識があった。休の未に、コンクリートのミキサーを配することなど、緊急の公共事でもない限り能だ。
「ああ、そうだ。だから俺もそう言ったよ。『プラントは休みだし、こんなにコンなんてに入らない』ってな。そしたらババアは、『うちのガレージにセメント袋が袋ある。砂も砂利もある。練りでいいから、今すぐおのところのミキサーとを寄こせ。ならいくらでも払う。今すぐやらないとが傾く』って、半狂乱だった」
「それで、ったんですか」
「ったさ。神は町の力者だ。商会の役員もやってたし、先代からの付きいもある。無碍にはできねえ。若い衆を叩き起こして、軽トラに型の撹拌を積んで、には神の敷に着いた」
健は当の景をいすように、線を虚空へ向けた。
「あの朝は、がってた。暗い庭にったらな、あのババア、靴を履いて傘も差さずに、池の縁に突っってたんだ。
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元はだらけで、羽の袖まで真っ黒にしてな。池の底にはもう、バラス(砕)が分く敷き詰められて、転圧までしてあった」
「静恵さんで、砕を敷いたんですか?」
「バカ言え、女の細腕でできる量じゃねえよ。さセンチ、広さ畳半はある池だ。誰かが伝ったか、夜通し作業したに決まってる。俺が『盤を確認するからスコップを貸してくれ』って底にりようとしたら、ババアがものすごい剣幕で俺の腕を掴んだんだ」
健の顔が、恐怖をいしたように歪んだ。
「『確認なんていいから、くセメントを流し込みなさい! 今すぐ、ここを全部埋めるのよ!』ってな。鬼みたいな顔だったよ。普通じゃねえとった。だが、施主があそこまでヒステリーを起こしてりゃ、こっちも逆らえねえ。持ってきたセメントと砂を練って、言われるがままにセンチのさで気に流し込んだ。均し(ならし)の作業も、ババアはずっと池の縁から歩もかずに、俺の元を監してたよ」
「その、俊さんは?」
綾乃の問いに、健の表がさらに曇った。
「……いたよ」
「どこにいましたか」
「母の裏の、古い蔵のだ」
健は声を潜めた。
「半頃、空がみ始めてきたときだ。蔵の脇の栓のところで、俊がホースで何かを必に洗い流してた。がってるってのに、カッパも着ないでな。
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俺と目がったら、あいつ、まるで幽霊でも見たみたいにねがって、そのまま蔵のに駆け込んで鍵を閉めちまった」
「何を、洗っていたんですか」
「分からねえ。暗かったし、目だったからな。ただ……赤黒いみたいなものが、排溝に流れていくのが見えた。蔵のの敷を、デッキブラシで狂ったように擦ってたよ」
綾乃の指が、帳のをく圧迫した。
ボールペンの先がを破りそうになるのを、辛うじて押し留める。
の未。
分の緊急請。
羽をだらけにしてち尽くす姑と、蔵ので何かを洗い流す息子。
そして、その数、静恵は篠原に話をかけてきたのだ。
『お宅の娘がを盗んで逃げた』と。
「……川さん。なぜそれを、に警察に言わなかったんですか」
沈黙がりた。
健はうなだれ、作業ズボンの膝を両で握りしめた。
「言えるわけねえだろ……! そのの昼には、町に『篠原の娘がを盗んで逃げた』って話が回ってたんだぞ。警察も『婚約解消のもつれによる失踪』として扱ってた。事件かどうかも分からないのに、町の力者のの庭で見たことなんて、警察に喋ってみろ。うちみたいなさな務、瞬で潰される。現に……おの親父さんのところは、あっというに干されたじゃねえか……」
健の肩がさく揺れていた。